1.地獄

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1.地獄

 遠いどこかの未来線の日本の話。 ある東京都在住の小学生が正20面体のパズルを中古屋で見つけて老夫婦の店主と交渉の末、6500円でそのパズルを小学生買った。   なんでもそのパズルは熊、鷹、魚の形になるらしい。 そして彼はそのパズルをものの一週間で全ての形に変形させて東京に地獄の門を開いてしまった。   その門からやってきた「害人(がいじん)」と名乗るもの達に東京は制圧され、天皇陛下のみは地方へ逃げ延びたが日本だけ壊滅状態となった。 陛下は愛知県を拠点とし、害人共に宣戦布告と共に東京を奪還するための号令をかけた。   ところが害人は人間の作った兵器では傷一つ負わず消耗戦に持ち込まれてしまった。 命懸けで調査部隊が持ち帰った害人の技術により、人間の死体と動物の遺伝情報を混ぜ合わせたクローン兵器を作ることに成功。 この物語はそのクローン兵器達の人間の尻拭いの物語である。      最終防衛ライン、神奈川県支部防人部署。 ここでは比較的人間らしいクローン体の人員がいる。 「所長、ミハリ、おえました。」 「ご苦労様、ありがとう。」 所長であるアオキは困惑しながら量産型クローンを労う。 量産型クローンは疑似的な人格は与えられているが感情や痛み、自我などは持ち合わせていない。   「アオキしょちょー! 配給の鳩サブレー貰ってきましたよーケロケロ!」 カエル顔で水掻きのある副長であるイシカワが鳩サブレーの缶を嬉しそうにデスクに広げる。   「ほら、量産型さん達も食べましょうケロ。 配給なんて一週間ぶりなんですからケロケロ。」 彼女はこの支部のムードメーカーである。 感情がないはずの量産型クローンにも分け隔てなく接する心優しい隊員である。   「勤務中だぞ。 それに配給物資は無駄にはできない。」 真面目な態度のアオキにイシカワはため息を漏らす。 「まーまーそんなにカリカリしないでくださいケロ。 これは報奨金とそれのお礼状ですよ。」 神奈川県には比較的安全な疎開地が南にあるのでそこから送られてきたものだとイシカワはいう。   「そこまでいうなら…。」 缶に入った鳩サブレーに手を伸ばした瞬間、窓ガラスが割れ、敵が侵入してくる!! 「テキシュウ!!」 量産型達がすぐさま四つ足の害人に攻撃するがびくともしない。 それどころか害人は頭にある棘を飛ばしてこちらを牽制する!!   「くっ、なんだこいつは?!」 咄嗟にイシカワと共に机を盾にして様子を伺うが埒が開かない。 そうしている間に一人、また1人と量産型クローン達がなす術もなく消費されていく。   「所長攻撃許可を!!」 イシカワは好戦的に前線へ出ようといきり勃つが自我のあるクローンをむやみやたらに消費することはできない。 「まて、落ち着け。 スピードが売りのお前よりゾウガメの遺伝子を持つ俺の方が制圧には容易い。」 諭すと彼女は渋々待機を受け入れる。 俺の背中には亀のような大きな甲羅がある。 その甲羅は刀でも砲弾でも劇薬の液体でも傷一つ付かなかった代物だ。 「さあ!どこからでもかかってこい!!」 所長服を脱ぎ捨て甲羅を盾にながら突進する。 軽々と害人達は避ける。 棚に突っ込んで寝っ転がるがそれだけで終わらない。 「亀が裏返ったらそれだけで終わると思うなよぉ!!」 コマのように回りながら腕から鱗の刃を生やして切り付ける! 量産型の害人のようで一撃で霧散する。 「イシカワ!!窓塞げ!! 防火用のやつで! その隙にこっちもロックをかける。」 「りょ、了解ですケロケロ!!」   イシカワも持ち前のジャンプ力で瓦礫を飛び越えて窓を防火用の窓を下ろす。 これが最終防衛ラインの日常。 休む暇もないくらい敵襲は昼夜を問わない。 詰所に転がる量産型クローン達の死体を死体袋に詰める。 消費されたクローンは自我や能力関係なく焼却処分される。 俺達には生まれた時にその誕生を喜んでくれる親はいない。 人間なら親という存在がいてその誕生を喜び、死を悲しんでくれるといつかの話で呼んだことがある。 死体袋に入れたものを焼却炉行きと書かれた鉄の扉を開け投げ入れた。   「う…いつやっても慣れないケロね。」 イシカワは暗い顔をして同胞の死体を運ぶ。 こいつは偶々、量産型クローンから自我が芽生えた例外だった。 その届けを出すことによって俺の右腕として働いている。 俺以上に表情豊かで他者の痛みや死に敏感な方だ。 クローンによって個体差はあるがイシカワほど敏感で人間に近しい自我を持った個体は稀だという。 「なあ、イシカワ。 どうしてそんなに量産型の奴らの為に涙を流せるんだ?」 「…所長は夢を見たことがありますか?」 彼女は涙を拭いながら俺をまっすぐ見据えていう。 「夢ってあの人間達が眠ると見るっていう? でもそれは記憶の整理のためだとドクターも言ってただろう?」 質問を質問で返すと彼女何かを悟ったのか目を伏せて何も言わなくなった。 「変なこと聞いてすみません。 きっとバグで涙が出たんだと思います。」   いつも通りの笑顔を振りまいて彼女は散らかった詰所の掃除に取り掛かるのであった。 この時、どんな言葉を掛ければよかったのかわからなかった。   【To be continued】
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