1日目 前半

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1日目 前半

 タクシーは延々と長閑な田舎道を走っていた。  見渡す限り、緑が眩しい森ばかり。休養するならいいが、刺激を求めるとなると、少し、物足らない。  駅から目指す屋敷はタクシーでも三十分はかかる。だからか、すでにメーターは千五百円を越えている。 「それにしても、お客さん、あのお屋敷に行くんですか?いいですねえ。なんてったって、日本で一番有名な占い師の先生がいらっしゃる。相談料がべらぼうに高いですね。あたしら庶民には無理ですな。ハハハ」  運転手は上機嫌に喋る。それもそのはずだ。コトリたちは運転手にとってはいいお客さんだ。屋敷に着く頃にはメーターが五千円になっているだろうから。  隣では尾形くんがイビキをかいて眠っている。 「あの、運転手さん、やっぱり五千円以上になりそうですか?」 「そうですねえ。何せ、彩夢館は駅から6キロも離れてますから。お客さん、変な気、起こさないでくださいよ。こっから歩くなんて、正気の沙汰じゃありませんよ」  運転手はしっかり釘を刺してきた。まったく商魂たくましい。  コトリは諦めて払うと決めた。相談料が運賃に相殺されたと思えば、安いものだ。  やがて、彩夢館が見えてきた。  森の中に威容を誇るように建つ木造の館。童話に出てきそうな建物は、森の主のような佇まいだ。  タクシーは門の前まで行き、止まった。メーターは五千五百円を示していた。  コトリは泣く泣く、財布から五千円札と五百円玉を出した。刑事といっても所詮は、公務員。決して高給取りではない。それに今回はプライベートなので、領収書をもらって必要経費として落とせない。
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