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「わたし、医師をしております、田村寛一と申します」
髭を蓄えた恰幅のいいダンディなおじさんだ。病気に無縁なコトリにとって、医師とはほとんど、接点がない。産婦人科ならまだ、接する可能性はあるが、まだ先の未来だ。
「心臓外科医ですか。これはすごい」
横から尾形くんが言った。
田村は尾形くんの顔を押さえつけて、目を凝視した。
「黄疸が出てますね。お酒はなるべく、控えるように」
尾形くんは王様に仕える奴隷のように、平身低頭、頭を下げた。
次にコトリを見た。何か忠告されると思いきや、健康優良児ですなと言って、微笑んだ。健康優良児って、一応、わたしは成人なんですが...。
「先ほど、彩夢先生は女子大生の妊娠を当てましたが、医師なら誰でも気が付きます。あれはちょっとした知識があれば分かります」
「彼女、すごく驚いていましたね」
「いやはや。盲信しすぎるのも怖いですな」
「田村先生は、彩夢先生の相談者ですよね?」
「あははは。うちの家内がそうなんです。わたしは代理です。医師って、職業柄、論理的に考える癖がありまして。家内からは石頭とよく、言われます」
ここにも、アンチとまでは言わないが、彩夢先生に懐疑的な人物がいた。
隣で新聞を読んでいた、スーツを着た男性が「こんちは」と声をかけてきた。
ちょうど、コトリと尾形くんは出されたケーキをまさに食べようとしていたところだった。
「あの、この会の出席者って、なんか、おかしくないですか?」
コトリたちは許可もしていないのに、会社員風の男性は、椅子に座った。
「あの...」
「あ、失礼しました。わたし、都電気で営業をしています、茂原和明といいます。家電のことなら、わが社へどうぞ」
しっかりと営業もしてくるあたりは、抜け目ない営業マンだ。
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