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尾形くんは百年の眠りから覚めたかのように清々しい顔をしていた。この人と結婚したら、毎朝、こんな恍惚とした顔を拝むんだなと、コトリは夢想した。
「ここが、噂の彩夢館かあ...。夢を壊すようで悪いんだけど、最近、御堂筋先生は不動産投資に失敗して、多額の債務を抱えてしまったらしいよ。だから、地元の人は彩夢館を負債の債務館と揶揄しているみたい」
尾形くんが余計な情報を出した。
「それは、御堂筋先生を妬んでる輩が言っているだけよ」
コトリは唇を尖らせた。
「あーあ。どうして、論理的なコトリちゃんが占いなんて、まったく根拠のないもの、信じるかねえ?」
「占いって、実はちゃんとした論理の上に成り立っているのよ」
「へえ、そうなんだ」
「天皇が都を平城京に移したのも、占いなんだから。占いで政治が動いたりしたのよ」
コトリは得意顔だ。
大きな黄金の門扉の柱のインターホンを鳴らす。
スピーカーから執事らしき男性の声がした。
「合言葉をお願いします」
「彩夢先生はとっても綺麗」
コトリがスピーカーに向かって囁くと、黄金の門扉がゆっくりと開いた。
「しかし、センスのない合言葉だな」
相変わらず、尾形くんは毒舌だ。占いを端から信じていないので、粗ばかり探してくる。
入口までの長いアプローチを歩くと、扉の前に黒いスーツを着た初老の執事が立っていた。背筋をピンと伸ばして、微動だにしない。執事を絵に描いたような佇まいだ。
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