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執事は忙しなく、各テーブルに着席しているゲストのカップにティーを注いでいる。なかなか真似できない仕事ぶり。痒いところに手が届く動きをしなければ、御堂筋彩夢の執事は務まらないのだろう。
「あのう...」
隅のテーブルに座っていた若い女子が沈黙を破るように声を発した。
「なんでございましょうか?」
「すみません。お手洗いをお借りしたいのですが...」
「そうですか。トイレはここを右に出て、騎士の像があるところを左に曲がってください。噴水の向かいにトイレがありますので」
女子はハンカチを口にあて、逃げるようにリビングルームを出た。
尾形くんは彼女を目で追いながら、「ゲストの中で一番若そうだなあ。やっぱり、若くても悩みはあるんだね」と感慨深い。
「当たり前でしょう。悩みに年齢は関係ないでしょう。いまどきは、小学生でも悩み過ぎて、円形脱毛症になったり、胃潰瘍になったりするんだから」
「デリカシーに欠けて、すいませんでした」
「あのう...、そちらさんもご招待されたんですか?」
初老の婦人が近づいてきた。
にこやかに笑いながら、友好のムードを漂わせていた。
「はい。小鳥遊明恵と申します。御堂筋先生に何度か占ってもらっています。しがない公務員なので、一回の相談で半月分の給料を使ってしまって。でも、先生はすごく的確で、よく当たります。誰かさんは占いは胡散臭いと揶揄してますけど、古来から占いが続いてきたのは、それなりに理由があるんでしょう」
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