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◇◇
「どーのーはーなー見ーてーもーキーレーイーだーなー」
チューリップがコーラス隊のように揺れていた。
黄色、赤色、ピンクに白。
他にもパンジーやシロツメクサ、たんぽぽに野菊。
ナメコくんはわかめさんが買ってくれた電子図鑑を開いて、本物と写真とを見比べている。
かつて廃棄場だった場所は整備され、人々が憩うパークとして生まれ変わっていた。
風が噴水の飛沫を乗せて微かな涼を送る。
少し暑さを覚えるほど陽光を遮る雲の数は少なかった。
ポロンポロン
鋼色の硬質な指が黒鍵を押さえ白鍵の上で跳ねて繊細な音を紡ぐ。
「はい。わかめさん。いつもありがとう」
画用紙を丸めてリボンで結んでわかめさんに贈呈する。
わかめさんが両手でそれを受け取ると、シロツメクサで作った冠を頭に被せてあげた。
指先でリボンをほどき、丸まった画用紙を両手で伸ばす。
その絵を見たわかめさんの表情には愛と哀が合わさっていた。
「本物には見えないけど。できるだけ本物の色を写せるように頑張ったんだ」
画用紙に描かれた絵には沢山の色が使われていた。
まさしくそれは本物を写しとろうと試行錯誤した証だった。
「凄いわ。本物みたい。ううん、この絵のどこにも嘘がない。感情の色まで加わってる。だからこの絵こそ本物なのよ」
わかめさんが複雑な表情で語る複雑な感想にナメコくんは首を傾げた。
でも、わかめさんが喜んでくれている。
感情が浸透して、共鳴して走り出す。
そこに確かにあるものは、あるからこそ変化する。
だから常に今を大事にしたかった。
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