年明け

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 年跨ぎに末田俊郎は走っていた。外套の前のボタンは走りながら外した。汗が額を伝う。末田俊郎は決して気温差のある国に出掛けていたわけではない。外気温は車の表面を凍りつかせている。息が苦しい。末田俊郎は学生のころきりで走ることがなくなっていたことを焦りながらも思い出していた。そう、学生のころは田尻博らとよく走り回っていたものだ。それは別に体育会系のサークルに熱をあげていたわけでも、飲食のバイトでホールを右往左往していたわけでもない。ただただ子どもだった。缶があれば缶けりを、なければ鬼ごっこを、年甲斐もなくキャンパスで遊び歩いた。末田俊郎は田尻博よりも背が高い。田尻博はよく負けると足の長さを言い訳にした。そういう負け惜しみを言うやつだった。末田俊郎は曲がり角を曲がって駆け抜けようとしたとき不覚にもポリバケツに足が膝からぶつかってしまう。末田俊郎は体制を崩しながら、散らばるポリバケツの中身と共にアスファルトに勢いよく倒れこんだ。手のひらを擦りむいた感触がした。けれど確認するまもなく正面に追手を認識した。よく知らない街で思いつきにかられ入った飲み屋だったが、こんなことになろうとは。二人の屈強そうな男が汗を手の甲で拭いながらにたにたといった表情で近づいてきた。
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