第十四章・悠久の空に風が吹いて

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「今日の会議は上手くいったか?」 「はい、万事つつがなく。式典までに準備も間に合うでしょう」 「それなら安心だな。ドミニクも間に合わせてくれるだろう」 「……ドミニク様には無理なことを押し付けてしまいましたね」  今、砕けた祈り石はドミニクの手によって修理されています。  ハウストの転移魔法でドミニクの元を訪ねたのは昨日のこと。その時のことを思い出すと、少しだけ申し訳ない気持ちになります。  ハウストはドミニクの元を訊ねると開口一番言ったのです。 『三週間で直せ』  そう言ってドミニクの前に置いたのは砕けた祈り石の指輪。  一緒に訪ねたイスラとゼロスも壊れたペンダントを出したかと思うと、 『なおせ。さんしゅうかんだ』 『ばぶっ。あぶぶー!』  ドミニクに迫ったのです……。  魔王、勇者、冥王に無理難題を迫られたドミニクは半泣きでした。 『見ろっ、この粉々の石を! ほぼ砂だよ砂!』  半泣きで訴えていましたが、もちろん三人が聞く耳を持つ筈がありません。  ……四界の王って我儘ですよね。  こうして無理やり修理依頼を押し通し、御披露目式典に間に合うように不眠不休で頑張ってくれています。  式典が無事に終わったら彼には感謝のお手紙を書きましょう。 「明日も式典の準備だったな」 「はい。明日は朝議で打ち合わせをして、イスラとゼロスの衣装を決める予定です」  今日のことを思い出して思わず笑みが浮かぶ。  式典の準備は大変ですがイスラとゼロスの衣装選びは楽しかったです。 「今日も二人の衣装を少し見せていただいたんですが、どれも素敵な衣装ばかりで目移りしましたよ。用意してくださってありがとうございます」 「二人は俺とお前の第一子と第二子だからな」 「はい」  私も頷いて、ハウストにそっと凭れかかります。 「式典、もうすぐですね」 「ああ、楽しみだ。お前が俺のだと宣言できる」 「それなら、あなたは私のだという宣言でもありますね」 「是非してくれ」  軽やかに笑ったハウストに私も式典が楽しみになってくる。  式典当日までの多忙な準備期間は大変ですが、それも乗り越えられそうです。 「ハウスト、そろそろ寝ましょうか。明日も早いですから」 「そうだな」  ハウストが立ち上がり、私の手を引いてベッドへ向かう。  そこにはイスラとゼロスが並んで眠っていて、二人の穏やかな寝顔に温かな気持ちがこみあげる。  二人を挟んでハウストと同じベッドで横になりました。  二人の子どもの寝顔の向こうにハウストが見える。  ハウストはイスラとゼロスを順に見て、最後に私を見つめてくれます。 「おやすみなさい、ハウスト」 「ああ、おやすみ」  ハウストの優しい声色。  彼は身を乗りだし、イスラとゼロスの頭上を越えて私の額に口付けを一つ。  口付けの心地良さに私の顔も綻んで、そのまま眠りに落ちていく。  眠る間際に見た彼の顔も穏やかに綻んでいて、きっと今夜も幸せな夢が見られることでしょう。  こうして御披露目式典の準備は慌ただしくも進んでいき、そしてとうとう当日を迎えたのです。
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