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「ブレイラがよんでる。もどるぞ」
「ばぶっ!」
ブレイラの元に走って戻ると両腕を広げて迎えてくれる。
いい子いい子と頭を撫でられるとイスラもゼロスも嬉しくなった。
「私の側にいてくださいね」
「わかった」
「あぶっ」
「ふふ、ありがとうございます」
ブレイラが安心したように表情を和らげる。
今度はブレイラの側をイスラも歩いた。
ふとブレイラを見上げると、ハウストの隣に立って腕にそっと手を掛けている。
腕に控えめに手を掛け、寄り添って、ハウストの横顔を見つめてふわりと笑うのだ。
そんなブレイラは幸せそうで、嬉しそうで、とても綺麗な顔をする。
そしてブレイラの視線に気づいたハウストが振り向いて目が合うと、ブレイラの頬が仄かに染まって瞳が甘く輝く。それはイスラの大好きな顔。世界で一番綺麗だと思える顔だった。
じっとイスラが見上げていると、それに気付いたブレイラがイスラを振り向く。
「どうしました?」
「えっと……」
ブレイラの顔を見ていた、とはなんだか言えない。
だからイスラの宝物の話しをする。
イスラは先日ブレイラから受け取ったペンダントを取り出した。
祈り石が嵌められた特別なペンダントだ。鎖で繋がれたペンダントを首に掛けて、ずっと肌身離さず持っている。
「これ、にあう?」
「はい、とても」
優しく微笑まれて照れ臭くなる。
イスラはくすぐったい気持ちを誤魔化すようにハウストの左手薬指に嵌められた指輪を指さした。
「これもほしかった」
「おい」ハウストが思わず声をだしたが、その隣でブレイラは笑っている。
ブレイラがハウストの腕からゆっくりと手を離し、イスラのペンダントを持っている手を両手で包んだ。
「ごめんなさい。指輪はハウストだけなんです。でもあなたに贈ったのも、ゼロスに贈ったのも、同じ気持ちを込めていますよ?」
「おなじ?」
「はい。あなたが守られますように」
「――――ブレイラ!」
はっとして目が開いて、視界に映ったのは炎が小さくなった焚火。
今にも消えそうなそれに肌寒さを感じて一気に現実に引き戻される。
「ゆめか……」
……いや違う。
夢ではなく、記憶だ。
つい先日の記憶を夢として見たのだ。
イスラの瞳にじわりと涙が滲む。
「ブレイラ……」
名を呼んでも声は誰にも届かない。
イスラは目元の涙を拭うと、今は少しでも休まなければと目を閉じる。
泣いていてもブレイラに会えない。
そんな暇があるなら今は少しでも休んで体力を回復させ、ブレイラに会うために歩かなくてはならない。
イスラは麻袋を握りしめて無理やり眠るのだった……。
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