脚本家シルク、爆誕

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 引き受けちゃった、引き受けちゃった、引き受けちゃった…!  シャルルの屋敷を出て公共の馬車が止まる場所に向かう。頬はずっと熱いままで鼓動が常にけたたましく鐘を鳴らし続ける。 「頑張らなくちゃ…前世の全てをつぎ込んででも傑作産まなきゃ。」  シフォンはシャルルの従者に送り届けられたため、帰路は私一人だ。周りには人影が見えないため、私の独り言ははっきりと聞こえて空気に溶けていく。  脚本作成の話を引き受けたのち、シャルルはネタになりそうな神話や軍機エピソードをまとめた書類と史料をくれた。 そして、二週間後までにとりあえずどんな話にするかを決め、授業終了後に屋敷に来てほしいと言われた。 テキパキと指示を出し分かりやすくやるべきこを説明してくれる彼はまるで編集者のようで少し面白かった。 が、今思えば彼は貴族で今回の劇はスピカへのアピールにもなるのだ。あれくらい真剣にやるのが当然なのかも知らない。  そう思いなおして、私は重大なことに関わっているのだと興奮していた自分の頬をぱんぱんと手でうち頬肉を引き締める。するとその時、後ろからぱたぱたと足音がした。 「おい、シルク。」 「?、シャルルさん?」 びっくりして振り返ると、シャルルが頬に汗を流しながら走ってきていた。 「どうしたんですか。」 「兄貴に叱られた、大丈夫だと言われたとはいえ女性を1人で帰すな、お詫びもかねて迎え、と。」 「え?馬車が来るところ、もうすぐそこですけど?」 「だよな。」  シャルルは即答し、盛大にため息をついた。 「…ったく、兄貴は女に優しすぎる、 だから変なことに巻き込まれるんだ…。」 「気持ちだけ受け取っておきます、 わざわざ来てくださったのにすみません。」 「お前は謝るな、俺はもう帰る。」  私が一人で帰ることに心配がいらないのを察してか、シャルルは私に背中を見せて帰ろうとする。しかし、何かを思い出したのか足を止め顔だけこちらを向く。 「ひとつ聞いていいか。」
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