これはきっと天罰

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これはきっと天罰

貪欲は罪だと、昔読んだ本にそう書いてあった。欲の多い人間は徳が少なく、満たされていることに気づかないまま飢え続け、その姿はとても醜い、と。 私はその言葉がなぜか頭から離れず常に心の中で持ち歩いていた。でも、その言葉に従って生きることは出来なかった。 私は成長するにつれ欲をたくさん持ってしまった。  その原因は私の過去にあった。 小さい頃から私には胸を張って言える特技がなかった。有名な大学を出て、大企業の重鎮として働く両親と違って私は頭が悪く、異常な学生で友達もできなくていじめられて、容姿も弟のように優れていない。唯一個性的である趣味の小説執筆もコンクールに応募できるほど上手くは書けない。 何も優れない私が反吐が出るほど嫌いだった。 そんな私を優しい家族は常に励ましてくれた。でも、愚かな私は自己嫌悪から抜け出せず、両親の優しい言葉を素直に受け止められなかった。 そして、親が愛を注いでくれているのに私は愛されたいと欲を持つようになった。自分にも愛されない女であるのに、あまりにも愚かな欲である。   だから、今の私の状態はあの時に出会った本によってもたらされた天罰なのかもしれない。 「柳瀬さん!柳瀬さん!返事してください!」 …ああ…もう、死んじゃうな……コレ。 生きたい。いきたい…息がしたい。  親戚の家に行く途中、横断歩道を渡ろうとした瞬間、ものすごいスピードの車が私に激突した。 「ぁ……おと、さん…おかぁ、さん…しょう……。」 段々と体が冷たくなっていくのを感じる。 息を吸えば吸うほど吐けなくて、自分の髪を濡らす血のぬくもりが心地いい。  目が開けられないからなのか、意識が遠のいていないのか分からないまま目の前が白く霞んでいく。 …ああ、なんて無様な最後なんだろう。 いや、でも自分みたいな女にはこのくらいの死がお似合いか。 心の中で皮肉をこぼし、私は意識を手放した。  
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