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「太郎、今までありがとう……元気でね」
拙者を見つめる姫様の瞳から、大粒の涙がぽろぽろとこぼれている。
なんということだ……!
「ああ、姫様……!」
それを拭って差し上げる事も出来ず、姫様は殿と奥方様に連れられて行った。
「太郎、さくら、二人とも仲良くするのよ」
どこの馬の骨とも分からぬ輩と、祝言を挙げる為に……!
「姫様!姫様あ!なりませぬ!
殿様、奥方様!あなた方は騙されておられるのです!なぜ気付かぬのですか!?」
声を限りに、必死に訴える拙者を呆れた様に見下ろす殿。
「やれやれ、仕方のない子だ。大人しくしていなさい。さあ、急ごう」
「そんなに泣かないで。さよなら、太郎」
そして無情にも鉄の城門は閉じられた。最早どうにもならぬのか。
ああ、家臣たるもの、命に代えても姫をお守りせねばならぬのに!
「ひ、姫様あああ!!」
まだ元服しておらぬとはいえ、仮にも男として生を受けた者が、地に伏して泣き叫ぶ姿はさぞかし醜いものであろう。
笑わば笑え、構うものか。叫ばなければ、もう拙者は砕け散ってしまいそうだったのだ。
「……はあ。泣き虫太郎、ぴえーんこえてぱおーんなのは分かるけどさ、そのへんにしときなよ。
あんた子供のくせに忠臣過ぎて草生えるわ」
そんな拙者に、側で大人しく姫様を見送っていた忍びのさくらが声をかけた。
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