雲が見える

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雲が見える

少しだけ、頭を動かした。 自分は動かしたつもりだが 実際には 動いてないのかもしれない。 けど 顔に触れる砂と石が ジャリっと 少し音を立てたのが聞こえた。 微かに、雲が見える。 白い雲が見えた。 久しぶりに 見た空。 いつも見ていたはずなのに こんなに ゆっくり 空を感じたのは、いつぶりだ? その雲は 風がないのか 動かない。 どのくらい 気を失っていたのか。 気がついた時には 激しく揺れていた大地も 空気を引き裂く爆音も聞こえなかった。 あんなに騒がしかった周りの音が ピタリと止まっていた。 鼻先に感じていた雪の冷たさや 折れてしまった片足の痛みも この状況に慣れてきたのか もう今は 落ちついてきた。 この状況になって 今の時期らしい雪景色を 落ちついて感じるのも 不思議な話だ。 去年のクリスマスは 愛する彼女と クリスマスマーケット入口にあった ツリーの前で写真を撮った。 マーケットの主役だからこそ、 ぶらさがっている色とりどりの電飾、 きらめく星や お菓子のオーナメントが ひとつひとつ華やかで みなが それを眺めて楽しんでいた。 雪の中、 冷えきった体で見つけたワゴンの ホットワインを お互いに ふーふー冷ましながら、 ちびちびと飲んで 厚めのパンとよく溶けたチーズ、 いつもより高級なハムが数枚 挟んであるサンドイッチを頬張った。 半分こする予定で ジャンケンに勝った俺の 最初の大きな1口に 『たべすぎー!!』 って 笑いながら 彼女は、不貞腐れてたっけ。 そのあとも 何枚も何十枚も ふたりの思い出は増えて いつかの未来の話だって 屈託なく笑うあの子の 夢を叶えてあげれるなら、 その世界を… 俺たちの場所を… 護るためならって志願したんだけど。
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