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「これは美味いな」
芭蕉は美濃、中津川宿の十八屋でもてなされた茶巾絞りに舌鼓を打った。
「《栗きんとん》でごぜえやす」
「初めて聞いた」
「栗を煮て、砂糖と混ぜたものをぎゅっと絞ったものでごぜえやす」
旅の疲れに酢をひと口含もうと、酢屋を訪れたのは、長月も終わろうとする頃だった。
人生を閉じる前に、齢四五にして、歌人たちが残した歌枕の地を訪れる旅は終わり、ついでに足を伸ばした伊勢から江戸に帰る道中。
重陽の節句の日には、この度、胃腸を悪くした曾良と共に菊の花酒を飲んだものの、栗は手に入らず、江戸で毎年その日に食べていた栗ご飯には預かれなかった。
「これはいいものを頂いた」
芭蕉は店主に礼を述べて立ち上がった。江戸への道のりはまだ遠い。冬の訪れを鼻先に感じながら、一歩ずつ踏み締めていった。
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栗きんとんの由来を調べると、元禄元年に美濃国(岐阜県)の「すや」が旅人に振る舞ったのが最初、との資料が出てきました。
松尾芭蕉が「奥の細道」執筆のため中津川宿を通った記録はありませんが、帰りがけには通ったかもという想定で書いてみました。
栗きんとん好きです。
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