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酒呑童子という心強い味方を得てから一ヶ月ほどがたった。
二月に入ると地上の至るところでは雪解けが始まり、春の桜が芽を出し始めている。京都は嵐山、貴船などの山地をのぞけば、雪ではなく、コンクリートが顔を出していた──
京都市押小路通にある、国際マンガミュージアム。ここには国内外問わずの貴重な漫画や資料が置かれていた。
広い芝生と、薄茶色のコンクリート性の建物が、どこにでもある建造物ではないという雰囲気を醸し出している。
そんな建物の中には漫画本をはじめ、雑誌もあった。昭和初期の雑誌や平成の漫画など。少女や少年漫画、はたまた青年まで。あらゆる世代が好む漫画が、年代ごとに並んでいた。
「──坊、この本ちゃう?」
ミュージアムの中を、一人の男か動き回る。
一つ目が描かれた布で顔を隠した、不気味な男だ。彼は下駄音を響かせながら、景気のよいステップを踏んでいる。
紺色の袴に、白と黒の帯。そして、下駄箱を履いていた。彼は不気味そのものな布を取ることなく、ミュージアムの中にある雑誌に手を伸ばす。
男は真楽 睦。こう視えても人間であり、相棒のナビゲーターでもあった。
雑誌は、ひとりでにパラパラと捲られていった。しばらくするとそれは修まり、雑誌は震え出してしまう。やがて雑誌の表紙に二つの目玉が現れた。
『……い、苛めないでおくれ』
雑誌は命乞いを始める。
けれどそれをよしとしないのが、布を被った男だった。彼は雑談を掴み、一緒にいる者の元へと投げる。
「別に苛めとりゃせんやろ? ただ、お前が手まり歌の呪いをこいつにかけたから、それを解除する気あるか謂う話やねん」
なあ坊と、カラカラとした笑いを後ろへと向けた。
男が視線をやった先には、一人の人物が立っている。黒いフードを深く被り、顔を隠しているようだ。その人物は細く長い指で雑誌を撫でる。
「…………」
『……綺麗な女の子だな、お前』
フードの下からのぞくのは、天女のように美しい顔だった。
凪の眉に、長いまつ毛。ぱっちりとした大きな瞳は、暗闇の中から光が差したかのように輝いている。肌は雪のように白く、頬は血色のよい紅色だ。さらりと流れる黒髪は絹糸のように細い。
微笑めば天使のよう。動けば気品のある高貴な者のよう。
それはどこをどうとっても非の打ち所がない、美しい少女だった。
「──僕は、君に聞きたい。呪いを解くつもりはあるのか? って」
高くも低くもない中性的な声が、雑誌の身体を震わせる。
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