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僕の頭の片隅に彼女は住んでいる。
日頃から何をしていても、何を考えていても彼女の存在がひょこっと出てきて僕の思考を掻き乱す。その恋愛的煩悩に辛味や苦味は無く、幸福ばかりが頭を支配する。
だから僕が意識を取り戻した時、隣に体育座りしている少女を差し置いて彼女の事を考えたのだ。何をしていても彼女の事を僕は考える性質だから。
「やぁ〜っと起きたッスか?村上さん」
硬く舗装された地面。目覚めの夢心地な気分が抜け、体を起こす。冷えた空気が肌を撫でた。
「……あえ?」
間の抜けた声が出た。
出たというより、零れ消えた。
端的に言えば、僕の轢死体が隣に転がっていた。生焼けのハンバーグよりも粗挽きなそれは、最早人間の形を成していない。
その横には壊れたガードレールとキスしている僕の黄色い車と、ボンネットが真っ赤に染まった黒い車が止まっていて、場違いにも事故現場かな?とどこか第三者目線でこの光景を見てしまっていた。
喉が糊で貼り付けられた様に開かず、声が出ない。恐怖が体を縛り付けていて全身が強ばっているのを嫌でも意識する。
「村上さん?聞こえてるッスよね?ってまあこれを見たら流石に、震え上がるのも無理はないか」
「……君は誰だ?」
地雷系、と呼称されている服装を身に纏い、ピンクの髪型にしている何とも尖った見た目をしている少女は僕を一瞥するとヒラヒラしたスカートを回転して見せびらかす。場違いな雰囲気に飲み込まれそうになる。
「これ、可愛いッスか?」
「……いや、その」
「そこは可愛いねって言わないと〜。口説きのプロには程遠いッスね」
ゲラゲラと笑う少女に一切の陰りはない。ここがメイド喫茶なら対応に花丸をあげたいが無機質なこの空間ではその異様さが浮き彫りになるばかりだ。
「何が起こったか分かってない、って顔ッスね〜」
「……何が起きて君が何者なのか、説明をくれないか?僕の頭じゃもうパンクしそうだ」
「車もパンクしてるッスけどね〜」
上手い事言ったみたいな顔がやけに癪に障るが、黙って話の続きを促す。
「簡単に言うと、私は魂回収担当の死神で〜、事故を起こして轢死体になった村上さんを回収しに来たって感じッス!」
「なるほど分からん」
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