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僕は納得したフリをして、今の状況を飲み込むフリをして、山道を歩くフリを止めた。
「じゃあ歩いても無駄だ。こんな山道じゃ僕が住んでる街まで何本足があっても足りやしない」
「魂が消えるの、嫌じゃないんッスか?」
飴玉の味が口を満たして、今更ながら自分の身に起きた事を理解する。死んだショックも勿論身に堪えるが1番心にくるのは、誰も僕の事を覚えていないという地球からの絶縁状だ。この世界に何も与えず受け取れなかった自分の空虚さに心が痛めつけられる。
「村上さんはまだ消えていないッス。それはあなたの彼女がまだ朧気とはいえ、覚えているからッス」
「……僕に救いはあると思うか?」
「知らないッスよ。でもここで待ってゆっくり消えて行くよりは、行動する方が理に叶っていると思うんッスけど」
足はまだ傷ついていない。僕の裸足の素足は太陽など知らない真白で、生前のインドアっぷりがひと目で分かる。歩けばこの足は小石に傷つけられ血が吹き出し、辞めとけば良かったと心から悔いる結果になるのかも知れない。いや、なる確率の方がずっと高い。幽霊なのに痛みだけは感じてしまうのだ。
でも希望があるのなら。
4年と2ヶ月の絆があるのなら、賭ける価値はある。死にたくないから歩くのでは無い。救われる為に、往くのだ。
「……歩くんッスね?」
「……うん」
それだけで、十分だった。
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