色葬

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 色葬を終え、灰を処理した彼女は私に頭を下げる。 「ありがとうございました」 「いえ、そんな……今まで何も知らずに生きていた自分が、恥ずかしいです」 「そうじゃなくて、信じていただけて嬉しかったです。昔から、そんな古くさい風習を信じているなんて馬鹿だって笑われてきましたから」 「こちらこそ……何だか、忘れていた大事な何かを、少し思い出せた気がします。どうもありがとう」  これからどうするのかと尋ねると、彼女は家に戻ると答えた。なかなか距離があるので心配したが、毎年やっているので平気らしい。ここが夏に一番近いから、わざわざ歩いてくるそうだ。  確かに、子供の頃は季節を感じる自分だけの場所があった。桜の木があるあの公園、紅葉が綺麗なあの道。彼女にとって、ここがそうなのだろう。きっと世界には人の数だけ、特別な季節の場所が存在するのだ。 「さようなら、身体にお気を付けて」 「ええ、さようなら」  最後まで丁寧な彼女にしみじみと心を温めながら、私たちは別れを告げる。  これからも彼女は大切なものを、ひとりで捧げ続けていくのだろうか、と思った。  自分では、今もあまり実感を抱けない。私はただ彼女に倣ってやっただけなのだから。これで、この夏をきちんと終わらせてあげることができたのだろうか。夏は、喜んでくれたのだろうか。  煙の匂いが残る道を、私は歩いてゆく。駅まではまだまだ遠い。帰ったら何をしようか。そうだ、まずは部屋を片付けなければ。洗濯物も取り込まないと。衣替えをしてしまったが、夏服も少し出しておこう。  そんなことを考えていると、ふと後ろの方から、柔らかなそよ風が運ばれてきた。  その風に何かを感じて、私は足を止める。 「……おや」  茹だるような暑さが、少し和らいだらしい。
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