穏やかな毎日

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穏やかな毎日

一緒に生活していた矢田と鶴橋が相次いで家を離れてから香乃と津城は二人きりだ。 あとはモズと、庭のプレハブに毛の生えた様な平屋には常に組員が二人、入れ替わりに常駐しているのだが。 その組員とも引き継ぎに時々、必要事項を津城に伝える以外接点は無い。 この間鶴橋と都が籍を入れ、津城に婚姻届の証人の欄に記入を頼みにやってきた。 ポンポンと小気味の良い会話がなされていて、ああお似合いだなぁと嬉しくなった。 フルパワーでお握りを振りかぶる男前な都が、香乃は大好きになったのだ。 連絡先を交換して、向かいに矢田と住む和奏も合わせてグループトークをしたのは昨日。 画面にはかなりの量の履歴が残っている。 「随分盛り上がったみたいだねぇ、俺と奴らの悪口でも言ってたか?」 朝の食事も終わり、縁側でいつもの様にモズを膝に乗せて津城が揶揄いの微笑を浮かべた。 「違いますよー、内容は秘密ですけど…主に和奏ちゃんの惚気と、都さんのボヤキでした」 矢田はもう、溺愛に近い。 キュンキュンした。 都は離れている間にいかに鶴橋が部屋を汚していたのかを面白おかしく教えてくれた。 「へぇ…で香乃はどっちかねぇ」 「え?」 香乃のいれた緑茶を呑む津城の髪が縁側で揺れる。 庭に平屋は建てたけど、縁側から津城の背後に見える景色は変わらずに済んだのはよかった。 ゆったり柱に背中を預けて、津城が目を細めた。 「惚気か、ボヤキか…どっちだった?」 「…実はですね」 香乃はちょこちょこと足を進め、津城の隣に腰を下ろした。 「勢いに押されまして…だって会話みたいなスピードで進むんですよ?」 柔らかな風のふく縁側で、香乃も柔らかく笑う。 困った様な口調だけれど、楽しかったと顔に書いてある。 「読んでるうちに次が打ち込まれるから…もう時々相槌を打つのだけで必死で」 ふっ、と津城が吹き出した。 くつくつと笑う。 「おかしいねぇ…俺よりだいぶと若いのに…」 「もうっ、あのスピードは異常ですよ、私のタイプ速度の問題じゃないのっ」 本当に、二人で餅つきしてるみたいだったんですからと、香乃が言う。 「ああ、二人とも口が立ちそうだったなぁ、そう言えば」 香乃はどちらかと言えばおっとり話すタイプなのだ。 「でも、楽しかったですよ?…二人とも幸せそうで良かったです」 「うん、そうか」 津城と香乃の時間はゆっくり過ぎる。 もしかしたらそれに慣れて、時間の速さについていけないのかもしれない。 あのマシンガントークに割って入れたなら、もちろん、惚気なんだけどなと香乃は思った。 ふんわり笑う香乃を引き寄せて、津城が崩した胡座の間に囲う。 時間を気にせずこうして寄り添っていられる。 こんなに幸せでいいのだろうか。
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