始動

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可愛いキルトが掛かったベッドで、泣きながら眠って目覚めた朝は、憎らしい程の青空だった。 アラームもかけずに眠ったのに、いつもの時間。 モズの朝ごはんの時間。 身体はいつ、この時間を忘れるだろうか。 三階の窓からある程度見渡せる前の道。 昨日と同じ位置に、同じ車。 中の組員の入れ替えはあったのか、津城は今朝も 自分の事を思い浮かべてくれたのか。 これからどうしよう。 半年をどう過ごそうか。 また、家で済む仕事をする? 食欲なんて皆無だから、香乃はノロノロとカフェオレを入れる。 冷蔵庫の中も、綺麗に詰めてくれていて。 買い物もしばらくは要らないと気付いた時、津城の過保護を思い出してまた涙が出た。 一緒にいる間、初めからずっと変わらずに津城は香乃に甘かった。 大丈夫だと言っても、そこだけは譲らなかった。 「……だめだ」 このままじゃ、駄目になる。 津城にとって、護るだけの存在だったから連れていってもらえなかったんだ。 大事に、大事に包んで隠すだけの恋人だったから。 「変わらなきゃ」 強くなりたい。 香乃は昼を過ぎた頃着替えを済ませると、部屋のドアを開けた。 仕事を探しに行こう。 閉じこもって過ごす半年も、自分を変える為に過ごす半年も長さは同じだから。 引っ込み思案の人の感情に飲み込まれて小さくなる自分を変えたい。 まずはそこからだ。 動きやすいローヒールで、つかつかと歩いて通り過ぎた香乃。 組員が車をUターンさせたのを背中で感じながら進む。 これもだ。 そもそも、香乃が津城の恋人だと組の人間以外に知る人はいるのだろうか。 こんな風に四六時中誰かをそばに貼り付ける事が必要だとは思えなかった。 過保護な津城の、職権乱用。 香乃はバスも使わずに、調べておいたハローワークまで徒歩で進んだ。 途中で車が止まり、組員が付かず離れずでついてきていた。 恋人になっても、津城は香乃の口座に毎月給料を振り込んでいて。 正直言えば半年くらい生きていける。 だから、好きな仕事を探そう。 お給料より、自分が生き生きできる仕事。 今の自分に何が出来るだろう。 数ある仕事の募集に目を通しながら、香乃の目には力が戻っていた。
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