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いくつか候補を思い浮かべられた所で、香乃は窓口には行かずにハローワークを後にした。
机に座って仕事をするより、動いて人と関わる仕事がいい。
誰とでもちゃんと接して、怖がらずに居られる様になりたい。
そして、津城を待っている時間を無駄にしたくない。
何でも挑戦して、吸収して。
次に津城に逢えた時、強くなったと思って欲しい。
決心が鈍らないように、家に残された衣類は取りに戻らなかった。
ハローワークを出たその足で、足らない下着を買いに行った。
楽しそうな人達をすり抜けながら、香乃は歩いた。
離れていても、想うことは出来る。
多分、自分がどう過ごしているのか組員から津城の耳に入るだろう。
メソメソ家から出ない女を、組員はどう伝えるだろう。
そんなの嫌だ。
津城の恋人として、組員に対する意地もあった。
帰りに履歴書を買って、家に戻って黙々と書いた。
何かしていたら、頭の中の津城をほんの少しだけ隅に追いやる事が出来た。
香乃が最初に面接に行ったのは、早朝三時間だけのお弁当の盛り付けと調理補助の仕事だった。
料理は好きだったし、忙しく動き回ることで時間が早く感じるだろうと言う簡単な理由だった。
そこからはすぐに返事があり、三日後には働き出した。
その仕事終わりから移動と、万が一の残業を考えて二時間時間を開けて、次に働いたのは昼前から18時までのデパ地下の洋菓子店。
カウンターを挟んでお客さんと会話する事、商品の説明をする事。
どれも初めての事で最初は大変だった。
何より気疲れしたのは、女性の多いデパ地下での人間関係。
人数が集まればどこかしこに派閥とマウントの取り合いが溢れていて。
でもそれを乗り切る事が、それに馴染むことが目標だったのだ。
自分から話しに行った。
たわいも無い話しを、人がひしめき合う休憩室で休憩所ではない気持ちで受け止めて。
上手く立ち回ることを心がけた。
以前は逃げて、会社から離れて近くの公園で一人で食べていた昼食。
交わるのを拒否していたから、自分も同僚達も分かり合う事はなかったし、より反感を買ったのはわかっていたからだ。
もし、津城とまた暮らせる日が来たら…もっと関わる人が増えるかもしれない。
リハビリと、スキルアップだ。
仕事が終わればそのまま、バスで家の近くまで戻り。
スーパーで買い物をして家に戻ると、風呂と夕食で時間はすぐ過ぎる。
翌朝は四時起きだ。
香乃の作戦は成功だった。
疲れと、予定に動かされ…恋しくてメソメソ泣く時間は無い。
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