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コンタクト
コンビニの勤務を終えて店を出たところで、組員が待っていた。
家に帰る一つ目の角に立っていた組員が、津城から離れて初めて声をかけてきたのだ。
「香乃さん、身体を壊します」
「…ご心配、ありがとうございます。…でも、大丈夫ですから」
睡眠時間は多くて四時間。
部屋の電気が消えるのを見ている組員の顔は真剣だった。
これは津城の心配を伝えてくれている。
そう思ったら、嬉しさと同時に苦しくて。
会いたい、が溢れてしまいそうだった。
でも、津城が言った半年はまだ遠い。
「……それに、もう護衛して頂かなくて大丈夫ですよ…秋人さん…いえ、津城さんにそう、お伝え下さい」
そう言って通り過ぎ様とした香乃を、組員が呼び止めた。
「あのっ、」
振り返った香乃に、組員は迷った目をしてぐ、と奥歯を噛んだ。
「…うちの事務所の横に、靴屋があるのをご存知でしょうか?」
振り返った香乃は記憶を辿った。
数回しか行った事の無い場所だ。
記憶は曖昧だけれど、確か都を待って車の外にいた時。
見た気がする。
少し敷居の高そうな靴屋があった。
「…ええ」
「そこの上が、カフェになってます…最近、津城さんは毎日事務所に一度は顔を出しています」
窓から景色が見えるように、ガラス張りなんですよ、と組員が言った。
ビルの前に車を横付けして、津城は車をおりる。
もし香乃がそのカフェでお茶をすれば、一瞬でも津城の姿を見られると言う事だ。
「いえ、あの……俺は、そこのコーヒーが絶品だって話しを…ですね?」
多分、こんな話しをすれば、この組員は津城に叱責される。
これは、恋しさに潰れそうな香乃を気遣ったのか。
それとも、護衛を断った香乃が津城を忘れようと思っていると勘違いしたからか。
「そうですか、それは飲んでみたいですね……因みに、淹れたてのコーヒーが飲める時間、ご存知ですか?」
「え、ええっ!だいたい十時過ぎです!」
津城が現れるのはいつだと、香乃の質問の意味を受け取った組員が頷いて少し前のめりで答えた。
「次の休みに早速、行ってみますね」
「はい、絶品ですから、絶対!」
あの家で、嬉しそうに香乃から差し入れを受け取った時と同じクシャりとした顔で組員は笑った。
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