940人が本棚に入れています
本棚に追加
あの日、ホテルで津城と離れた日から丸半年が経った。
津城がその日付けまでを覚えているかは分からなかったけれど、約束の時間を無事に乗り切った。
ここからは、もう津城が連絡をくれるのをただ待っていればいい。
結局ここまで一日も欠かさず、香乃には護衛が付いていたから。
津城はこの半年、香乃が誰とも深く付き合わずに日々を過ごしていた事を知っている。
まだ、自分と同じ様に気持ちを持ち続けていたなら…必ず、何かしらの連絡が来るはずだ。
……窓を開けてベランダに出る。
毎朝空気を入れ替えて、数分だけマグカップを片手に組員に姿を見せながら外を眺める事にしている。
この半月で出来た習慣だった。
仕事に出ないという事は、外を歩く事も少ない。
取り敢えず生きてるよーと、お知らせするのだ。
同じ様に夕方にも少しだけ、ベランダから外を眺めるのも同じで。
煙草でも吸うのなら、もっとサマになるのだけれど。
(……秋人さん、煙草似合ってたなぁ)
終始気だるげだったけど、香乃の知らない雰囲気で板に着いていたその仕草を…あのピアスに触れる動作と一緒に何度も思い出した。
津城のそばに戻れる日が来たら、もっと色んな所を見てみたい。
優しいだけじゃない津城も、知りたいと思う。
一口、二口とカップに口をつけてから、部屋に戻ろうと待機している車に一度視線を向けた。
いつもの白のワンボックス。
「……?」
停まっているのはいつもの通りだけれど、香乃が少しだけ顔を柵から外側に出して車に姿を見せた時、ライトが点滅した。
ちか、ちかっと二回。
何かの合図か、伝言でもあるのか。
もしかしたら何か、津城からの連絡を持ってきてくれたのかと香乃は一瞬で胸を踊らせた。
今日で半年、そうであってもおかしくない。
下に確かめに行こう。
そう思って部屋にもどろうと背中を向けた時、真下でバンと、車のドアが閉まる音がした。
「香乃」
大きな声で叫ばれた訳では無い。
それでも、まだ人通りの少ない時間帯の静かな住宅街に、その声はよく通った。
振り返らなかった。
聞き間違えるわけが無いから。
戻って死角になっていた下を覗くより、足は玄関を目指した。
素足のまま靴を突っかけて、鍵もかけずに飛び出した。
起き抜けの、ノーメイクの顔に緩く適当に結った髪で、エレベーターも待てずに階段を駆け下りた。
エントランスのドアは片方開いたままだ。
足音なんて気にせずに駆け抜けた。
最初のコメントを投稿しよう!