体温

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津城は着ていた着流しで香乃を包んで、変わらない仕草で香乃の胡座の間に抱いて、ゆっくり話してくれた。 「会長と和代さんに、香乃は会いに行かなかった…俺に気を遣ったんだろう?」 元々、会長の邦弘と孫であるのに連絡先を交換していなかった。 何があるか分からない。 組のトップである邦弘に何かあった時、香乃に辿り着くのを遅らせる為だろう。 邦弘は津城を介して香乃に連絡をとっていたのだ。 邦弘の病気の治療は順調に進んでいたから、香乃は心配ながらもこの半年連絡をせずにいた。 組員に訊ねれば連絡は容易だったけれど、何があれば連絡があるはずだから。 和代の見舞いも同じだった。 少なからず組と関わりのある和代とも離れた方が、津城の意向に沿うと思った。 「……俺が家を開ける様になったのは、和代さんが転院したからだ」 「え?」 知らされて居なかった香乃は驚いて顔を上げた。 「和代さんにほんの少しだけ、反応が出てきた…会長が長野の山奥の病院に転院させたんだ。元々、そんなに長くあそこには居られないから」 知らなかった事に、香乃の表情が陰る。 津城は首を振った。 「親父が、連れて離れたんだ。長野には知り合いのガン治療の名医がいる。和代さんを置いて行けなかったんだろう」 邦弘も、もうあの家に居ない。 半年も遅れて知った事実だった。 「もちろん、香乃に伝える様に言われた。隠したのは俺の意思だよ」 怒りは無かった。 その津城の考えの中に、半年離れた理由がある。 あの日とは違って、津城はそれを話そうとしている。 「……そうですか、それはどうして?」 知りたい、ちゃんと。 怒りも悲しみも浮かべず腕の中からまっすぐに自分を見る香乃を、津城はしばらく見つめた。 眩しげに、目を細める。 「……親父は会長になって、現役から離れてもずっとついてた組員と一緒に生活してた…香乃も知ってるな?」 「はい、大きな家でした」 「……うん、今俺がそこに住んでる」 「……」 「会長の下に居た人間とは、もちろん顔は合わせてたが……俺は早くに違う場所で生活してた、いきなり俺が頭に変わって、どう統率を取るかそれが課題だった」 津城は苦笑いを浮かべて、少し疲れた顔で笑った。 胸ポケットの煙草は、きっと頻繁に吸われたのだろう。 「…親父の跡を継いだ組長じゃなく、極小の人数でやってるウチに預ける辺り、あの人も大概のドSだねぇ」 するん、と津城が香乃髪に触れて。 触り心地を思い出すみたいに、弄る。 「矢田だけだ、あの家で生活した経験があるのは…アレには随分働かせたな…ひとつの組として統合した以上、どの位置に誰を置くのか……もっと言えば、その中に俺を潰そうと思う奴がいるのか…それを確かめて決めるまでは…」 津城が香乃の額に唇を押し付けて小さく笑った。 「……香乃の事は隠しておきたかった」 香乃を連れて行ける状態ではなかった。
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