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「教えて下さい、どうして欲しいか」
いくらでも変わる。
「どうすれば、貴方の恋人として振る舞えるのかちゃんと教えて下さい」
一番大切な事は、津城と共にある事。
それ以外は付録だ。
「……それで、夜になって二人きりになったら、甘やかして下さい」
その手で一度頭を撫ぜてくれたなら、何だって構わないのだ。
「……」
まだ迷っている恋人の、大きくて色気のある手を握った。
「私を離したら後悔します」
大きく出たなと、自分でも思いながら。
期間限定商品を売り込むそれで、押し込んだ。
「やっぱり、そばに置いておけば良かったな…今居れば役にたったのになって思いますよ?」
連れて行って欲しい、根本にはもちろんそれがある。
邪魔になると言う理由なら、もちろん大人しく待っているつもりだった。
でも違うなら、香乃が怯えて離れて行くという心配なら。
「これからだって私、もっと変わります。絶対貴方に後悔させません」
今は自信がなくても、絶対そうなってみせる。
そうなる様に頑張る自信だけはある。
「連れて行って下さい」
津城は瞬きもせずに香乃を見ていた。
香乃も、目を逸らさなかった。
香乃にとってここは、どうしたって引けない正念場なのだ。
津城は、香乃が言葉を止めると初めて見る顔で微笑った。
泣きそうな、嬉しそうな…なんとも言えない顔だった。
「……うん、わかった、連れて行く」
香乃がほっと息を吐いた。
こんなにぐいぐい自分を売り込んだ事なんて無い。
「よかった…」
ほっとしたら力が抜けた。
どっと疲れた。
「あー…、よかったぁ…」
へな、と身体の力がぬけてペタンと床に両手をついた。
「…でもその前に」
「えっ!」
まだ何かあるのか、ぎょっとして顔を上げた香乃を見て、津城が心底愛おしそうに微笑んだ。
「二人で息抜きに行こう…それくらいはいいだろう?」
息抜き?と首を傾げた香乃に頷いた津城が、にやりと笑った。
津城はその後すぐに行動した。
香乃が着替えたら、普段使っている鞄をひとつ持たせただけで部屋を出た。
近場で食事かと思っていた香乃は、護衛をひとりも付けづに空港に向かう津城に気づいて度肝を抜かれる事になった。
連れて行かれたのは京都。
一棟貸切のそのコテージで、丸三日。
香乃は津城の底のない愛を注がれる事になったのである。
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