鴛鴦の契り

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鴛鴦の契り

「……」 「他の所がよかった?」 温泉付きの内風呂と、完璧にプライベートを確保された空間に、プライベートプールまでついたその部屋の中央で、香乃は言葉もなく立ち尽くしていた。 きゃー!素敵! 連れてきてくれてありがとうと、はしゃぐのが正解なのだけれど。 ここまで連れてきた津城の早業と、その豪華さに香乃は固まっていたのだ。 「え、え?いつ?…なんで?どう……え?」 ふはっ、と津城が吹き出した。 立ち尽くしている香乃の横で着流しの懐で腕を組み、まずまずだねぇとのんびり呟く。 「まともな旅行のひとつもしてこなかったからねぇ…ここには連れてくるつもりで予約した……今ので全部の質問に答えられたかい?」 はぁ、と気もそぞろに返事を返した香乃を見て津城はまた吹き出した。 「……香乃がどちらを選んでも、ここから三日は離すつもりは無かった、俺の忍耐もそろそろ限界…付き合ってくれ」 案内してくれたスタッフの足音はとおに消えていた。 引き寄せられて情熱的に唇を塞がれた香乃は、そこからベッドに拘束された。 津城は(たが)が外れた様に香乃に触れたのだ。 着いたのは昼過ぎで、すぐにベッドに連れられて今はもう日が暮れている。 「香乃」 もう耳に届く濡れた音も、自分と津城の荒い息遣いも…何処か遠く。 ただ肌に触れる津城の肌と、名前を呼んで香乃の意識を引き止める声だけが全て。 ピンと整えられていたシーツは皺を寄せて、香乃の踵がそれをまた緩く乱していく。 「あ……ぁ」 「何回も、夢に出てきた…ただえさえ寝れねぇのに…何度も夢で抱いた。起きたら欲求不満だ、襖蹴り倒してやろうかと思ったよ」 止まることなく、腰を押し込む。 もうどこを触られても、気持ちいい。 疲れてクタクタなのに、このまま終わらなくてもいいと思う。 何度も、繰り返し抱かれた。 今までの穏やかさが嘘みたいに、情熱的な触れ方に翻弄された。 もちろん、香乃が苦しい様な追い詰め方はしなかったけれど。 もっと、もっとと愛情を流し込むみたいに津城は止まらなかった。 指一本動かすのも億劫なほど疲れた香乃を抱き上げて、津城は内風呂に浸からせてくれた。 そこでやっと、津城は情熱を引っ込めて穏やかに香乃の顔を覗き込んだ。 「……疲れたか香乃、でもまだ足りないねぇ」 ちゅ、と津城が香乃の濡れた肩に吸い付いた。 「……っ」 ふるりと津城の腕の中で香乃が震える。 カップからあと1滴で溢れそうな水の様に、身体に籠った熱が滲む。 疲れきった身体でも、津城に触れられればすぐに戻ってくる、グズグズに溶かされた感覚に息を詰めた。 「まぁでも……さすがに抱き潰したらまずいなぁ」 楽しげに津城が喉を震わせて、濡れて乱れた後れ毛をよけてくれる。 「……なぁ、香乃」 「……はい」 二人きりの空間、ここには邪魔は入らない。 津城も香乃も携帯の電源を落としてしまったから。 明日の朝、食事が運ばれてくるまでは、この世界に二人しかいない。 「……連れて帰る。だれにも文句は言わせない」 「はい」 ちゃぷんとひとつ、津城が香乃の方に湯をかけて。 「誰にも、軽く扱わせない…約束する」 「構いません、重いのは秋人さんで私じゃないですから」 ふ、と津城が笑った。
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