レイチェルは名探偵になりたい。

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「まあ、ミッドフィールダー全員が、司令塔やらなあかんわけやないけどな。全体指揮を執る人が含まれるってのは、そうやろな」 「……だったら、流美がやりたがるとしたらフォワードだろうなあ。あの子、前に体育の授業で一緒にやった時も、コマンドは常に“ガンガン行こうぜ”だったし」 「あはは、わかるわかる。一人でどんどん突き進んでシュート決めそうやもんな、流美ちゃん」 「でしょ?」  先生だって、彼女の脚力とスピードを見たらフォワードで起用したくなるはずだ。  そして、フォワードというポジション最大の問題は、他のポジションと比べて人数が少ないことだろうと思う。サッカーに詳しくない自分でも、公式試合で“1トップ”や“2トップ”という言葉を聞いたことがあるくらいなのだ。多くても基本、フィールドに同時に出るのは三人くらいだろう。当然、ベンチ入りメンバーもミッドフィールダーなどと比べたら多くはないはずである。 「……流美のやつ。自分が選手として入って、誰かを代わりに蹴落とすのが嫌だったのか」  いろいろと、矛盾が繋がっていく。 「それでも、好きな子の近くにいたいからサッカークラブのマネージャーになったってところだろうなあ」 「え!?流美ちゃん、好きな子おんの!?誰々!?」 「それをクイズにして出題されてんの」  サッカークラブに入って、好きな子の傍にいたい。でも、自分が入って誰かが蹴落とされたら嫌。この場合――そこまで配慮を向けたい相手はきっと、彼女が好きな相手に違いない。  好きな人の邪魔だけは、したくない。つまり彼女が好きな相手は、現在サッカークラブの公式試合でレギュラーをやっていて、フォワードで、それも彼女が入ったら代わりに外されそうな立場にいる人間だ。  つまり、圧倒的なストライカーといった、才能あふれた人物ではない。ならば。 「……ねえ、珠理ちゃん」  にやり、と私は笑って言った。 「サッカークラブのフォワード、レギュラー、でもって流美が入ったら落とされそうな立場の子。ついでに……ポニーテール女子が好きそうなタイプの男子、で心当たりの子、いない?」  この推理ゲームは、あまりにも簡単だった。というのも、現在レギュラー登録されていたフォワード五人のうち、二人はまだベンチ入りが精々なので除外。残る三人のうち一人は女子なので除外、一人は押しも押されぬエースストライカーだったので除外で――候補は時点で一人しか残らなかったからである。その少年の名前は、桂木小麦(かつらぎこむぎ)君。彼がポニーテールの女の子が好きだと言っていた、という情報も入手済みだ。 「で、もう一つ推理があるんだけどさあ」  その日の夕方。当てられて顔を真っ赤にした妹に、私は続けたのだった。 「桂木君って、うちのクラスなんだよねえ。……わざわざクイズにして私に出題したのは、私に仲立ちして欲しいってことであってますか妹様?」 「……ほんと、お姉ちゃんには叶わないや」  私の言葉に、流美は頬を染めたまま笑って見せたのだった。 「お願い、お姉ちゃん。……私の、恋の名探偵になってよ」  キューピッド、ではなく名探偵というのが。なんというか、彼女らしい。私も笑って、愛する妹の肩を叩いたのだった。
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