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レイチェルは名探偵になりたい。
『それはどうでしょう?』
『な、何っ!?』
テレビ画面の中、主人公がつばのついた茶色の帽子をくいっと持ち上げる。
少年漫画、“名探偵ホームズ!”の主人公である、穂村由紀影。彼はシャーロック・ホームズに憧れる中学生であり、身近で起きた事件を次々と解決していく優れた頭脳を持った中学生名探偵なのだ。
今まさに、謎解きのシーン。見ている私も手に汗握ってしまう。
『斎藤さん……いえ、貴方以外の人が犯人であるはずがないんです。お忘れですか?例のコンビニで、今日何が行われていたのか』
『あ!』
名探偵の言葉に、ヒロインの少女が声を上げる。
『そ、そうよ!今日、工事があったって言ってたじゃない!例のドアの前には、大きな機材が積み上げられていて通行不可能になっていたはず!』
『その通り。ゆえに、犯人もあのドアを出入りできたのは、工事の機材が積み上げられるより前だったのです。工事の機材は開店直前には詰まれていました。そしてあの日、開店前のコンビニに入ることができたのは……オーナーである斎藤さん、貴方だけなんですよ!』
『な、ななな……』
ずびしっ!と穂村少年に指をさされ、太った中年男性の容疑者がたじろぐ。じゃじゃーん!と勇ましい音楽が盛り上げるように鳴り響いた。
穂村少年の整った顔が、アップになる。
『斎藤典孝さん!高橋さんを殺害した犯人は、貴方です!』
そこからはもう、あれよあれよという展開。全てを見破られて逃げ出した犯人を、穂村少年が空手を駆使した技で仕留め、拘束していく。かっこいい、と私の口から声が漏れた。
私達小学生より、少し年上のかっこいいお兄さん。
熟練者に勝るとも劣らない空手の技の数々。
何より、その冴えわたる名推理!思わず私はテレビの前で、うっとりとぼやいていたのだった。
「かっこいい……私も名探偵になりたい……」
「……そうなの?」
すると、隣で一緒にアニメを見ていた双子の妹の流美が、目を丸くして私を見たのだった。そして。
「じゃあ……お姉ちゃん、名探偵の特訓でもしてみる?」
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