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怜に連れられて入ったその店は、一次会の会場がある通りとは駅を挟んで反対側の区域にあった。地下通路を通って駅を越え、大通りを5分ほど行ったビルの一角に入っている店舗だ。
昼間はカフェ、夜はバーとして営業している店である。ウイスキーが売りの中心とのことで、カウンターには春佳が見たことのあるものからそうでないものまで、沢山のボトルがディスプレイされていた。天井から釣り下がるペンダントライトの落ち着いた光が、それらを含め店内全体をムーディなものにしている。
カウンター席と通路を挟むようにテーブル席が窓際に四つ並び、更にもう一つ隅の方に壁を向いて二人掛けになった小さな席がある。春佳と怜はそこへ案内された。他の席はカウンターも含め二人で座れる状態ではなく、たまたま客の回転があったタイミングで空いたテーブルだったらしい。
「ここの店は、お酒だけじゃなくて食べるものも色々あってね。あ、スイーツとかも美味しいよ」
テーブルの端にラミネートされた裏表印刷のメニュー表が二枚、重ねて置いてある。一枚はドリンクメニュー、一枚はフードメニューが書かれていた。
怜が指差して示した列に記されているのは、日替わりのミニパフェやフォンダンショコラ、アイスクリームやゼリーなど、昼間のカフェでも提供しているスイーツだった。
何を注文しようか少し迷ったが、とりあえず酒は飲めないので、何となくスイーツの欄に目が行く。結局マロンパフェを選んだ。背の低いグラスにグラノーラやアイスクリームを層になるよう盛りつけ、いちばん上をケーキのモンブランのように飾り付けた季節限定のパフェだった。
「か、可愛い……春佳ちゃん、可愛い……!」
怜は、運ばれてきたパフェを食べ始める春佳を眺めながらそんなことを言い出し、ウイスキーロックを飲んでいる。
「……怜さん、もしかしてだいぶ酔っ払ってますね?」
「えへへ、バレた? お酒飲むの自体が久しぶりだから、実はちょっと調子乗っちゃってるんだ。一次会でもね、結構色々飲んじゃった」
正直なところが何とも微笑ましい。
その後怜は、普段は首都圏に住んで情報通信関連の会社に勤めていると話した。誰もが聞いたことのある電話サービスの会社だった。今は九月の連休を利用した帰省中で、高校時代の同級生に誘われて本日の会に参加したのだという。男性側の幹事と友人同士であるとのこと。
「いつまで地元に滞在する予定なんですか」
「二泊三日で、明後日向こうに帰る。何だかんだでゴールデンウィークもお盆も帰ってこられなくて、久しぶりの連休なんだ。帰省も合コンも飲酒も、ぜーんぶ久しぶり」
「お仕事……お忙しいんですか」
相手の生活にどこまで触れて良いものか様子を窺いつつ春佳が尋ねると、怜はグラスに残っていたウイスキーを煽るように飲み干し、あっはっはと、乾いた声で笑いながら言う。
「忙しいといえば忙しいかな。でも、これ以上は言わない。だって聞いたら春佳ちゃん、社会人になるの嫌になっちゃうかもしれないし」
「そ、そんなにですか……」
「あははっ、だから学生のうちに遊んでおきなよ……なんて嫌だね、こんな言い方。何だか先輩風吹かせてるみたいで」
春佳の方からは、市内の大学に通っていることと、哲学を専攻していることと、塾講師のアルバイトをしていることを話した。
怜はチーズの盛り合わせをつまみに、二杯目のウイスキーロックを飲んでいる。何か銘柄を言ってオーダーしていたものだが、酒を飲んだことがない春佳にはよく分からなかった。
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