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7.焦リ燥グ
自分が観たいとせがんだ映画にもかかわらず、いざ視聴するとそれほど共感できなかったことが残念であり、それに同行してくれた怜にも申し訳なく感じる春佳だった。
しかも、本来の予定日から二週間延期して映画館へ足を運んだ上の感想である。先々週は春佳が風邪を引き、先週は怜の家事都合で。顔を合わせて会うのも、怜が春佳の家に見舞いに来てくれた日以来だ。
レイトショーの上映が終わり、寝泊まりするために入ったビジネスホテルの部屋。申し訳程度の大きさのミニテーブルで向かい合いながら、下のコンビニで買ったチルドカップのコーヒー飲料を飲みつつ振り返るなか、感想を求める怜に春佳は正直に答える。
「すみません、最初はすごく期待してたんですが……結局、何だか今一つ共感できませんでした」
テレビCMで見た予告では、胸が切なくも温かくなるようなラブストーリーだと思い、心惹かれていた。しかし、作品全体を通すと主人公兼ヒロインの少女の破天荒な性格が過剰で、中盤辺りから反感を覚えてしまっていたのである。
加えて、ヒロインの相手役に当たる男子の高圧的な態度もまた、やはり長時間の視聴には耐え兼ねるくらいには、春佳とは相容れないものだった。
「予告映像は、美しい場面だけを切り取って繋げたものだったんだなって思いました。まんまと釣られた自分が恥ずかしいです」
「あははっ、いいじゃない。そういうのも、また人生経験だよ」
「……もしかして、怜さんはあの映画の内容、知ってました?」
「んー、知っていたってほどではないけど、脚本家と主演の名前見て何となく嫌な予感はしてたんだよねー」
怜が言うには、今回の制作陣に予てより評判の芳しくない噂がちらほら存在することを、ネットで事前情報として知っていたとのことだった。
「それなら、先に言ってくださいよ。そしたら違う映画にしたのに」
「えー、何かそれは違うでしょ。その作品自体が実際に面白いかどうかよりも、僕は、春佳ちゃんが素直な気持ちで選んだものを、一緒に観たかったんだよ。それじゃ駄目?」
きまり悪さに縮こまる春佳とは対照に、怜は至って鷹揚な姿勢だった。
なのに、最後の確かめる時の視線が、どこかこちらの気持ちの動きを試しているようで、春佳はまんまと心を擽られてしまう。
「……何だか、私ばかりが甘やかされている気がしますね」
「いいんだよ、それで」
怜はにこりと笑って春佳の手をとり、更に駄目を押すように言葉を紡ぐ。
「僕、春佳ちゃんのこと大好きだもん」
「そういうのは、ずるいです……!」
何だか気の利かない負け惜しみのようなことを言うのが精一杯で、下を向く。
付き合い始めて一か月半。デートも触れ合いもある程度回数を重ねてはいるものの、未だに怜からの「好き」という言葉には弱く、その度に赤面してしまうのだ。
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