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直前の怜があまりに勇み立った様子だったので、春佳はそこはかとない懸念を抱いていた。
彼の誘いに頷いてしまった以上、その後には相応の行為を受け入れることになる。そうした際に、何か嫌なことをされないか、怖いことをされないか、一抹の不安がよぎったのだ。
結論からいえば、その点に関しては春佳の杞憂だったのかもしれない。
ベッド上での怜の春佳に対する触れ方は、むしろいつもよりも細やかといえるほどだった。
身体のあらゆるところを愛撫して芯に響くような甘い痺れを繰り返し与えつつ、言葉では優しく苛みながら、怜は春佳の奥に潜む欲を丹念に引き出していた。
彼の手と声で作り出された扇情的な空気に取り込まれると、春佳の思考も悦楽の一色に染まり、いつの間にかそれまでの案じ事も忘れて愛し合うことに夢中になっていた。
そんな砂糖を煮詰めて溶かしたようなひと時を終えた後、火照る身と心を鎮めながら、そのままの姿で二人静かにベッドに横たわる。
その際に、春佳はあることに気がついた。
「……怜さん、少し瘦せましたか?」
怜は小柄ながら骨太で頑強な体型であるため、服を着ている状態だと多少の変化は外から見えづらい。
元々太っていたわけではないが、以前よりも顔回りの肉感が多少薄くなったように見える。露わになっている首から肩までのラインも、やや骨が感じられる。
「え、そう? 自分じゃ気づかなかったけど」
きょとんとした怜の反応。
決して極端な変化ではなく、本人の自覚がなくても不自然ではない程度といえばそれまでだが、少なくとも春佳の目には違いが明らかに映っていた。
「痩せましたよ……こうして触った感じも、間違いなく」
背中に手を回す形で抱きつくと、擦れ合った素肌からは三週間前とは異なる手応えが返ってくる。直接触れた際に、以前よりも骨格が伝わりやすくなったように思う。
「体調など崩されていませんか、怜さん? ちゃんとご飯食べてますか……?」
「平気だよ。食事だってちゃんととってるし」
確かに今日も映画を見る前に食事を共にしたわけだが、その際に彼の食べる量が特別減っているような印象はなかった。表情や声の調子も至って明るく、これといった不調は見当たらないのである。
「――春佳ちゃん、そんなに僕のことが心配?」
怜の声のトーンが少し変化し、春佳は自分の問いが所謂余計なお世話だった可能性に気づく。何気ない確認のつもりだったが、彼にとっては不快だったのかもしれない。
「すみません……あの、最近用事があったと仰っていたし、お忙しいのかなと思いまして」
どぎまぎしながら理由を述べる春佳の危惧とは裏腹に、怜は妙に上機嫌だった。再び声のトーンが上がる。
「何だ、それで気にしてくれたの。春佳ちゃんは優しいね」
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