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こちらへ少しにじり寄るように体勢を傾け、今度は怜の方から抱きついてくる。
まだ冷め切らない熱を帯びた素肌がこそばゆく触れる。
その絡み方が色を纏っていることに気づくよりも早く、春佳の唇が奪われた。それまでは静かな所作だったものが、触れ合った途端に噛みつくようなキスに変わり、再び心がざわつく。
喜ぶことも恥ずかしがることもできないほど、春佳の動揺は激しかった。
「……怜、さん……?」
やはり、何かが変だ。
一見普段通りかそれ以上に細やかに見えても、ふとした拍子の振る舞いに、普段の怜にはない荒っぽさを感じるのである。
三週間ぶりに触れ合うからだ、という理由は尤も。しかし、それにしても春佳に対して直前の声掛けもなく、まして同意もないまま接触する頻度がやけに多い。
「あの、気のせいだったら、本当にごめんなさい……やっぱり今日の怜さん、いつもと違って見えます」
「ふーん、どう見えるの?」
踏み込んだ指摘で気分を害さないかひやひやする春佳に対して、怜はなお上滑りな調子で逆に問いかけてくる。
少なくとも怒ってはいないのは確かだが、悪戯っぽい笑みは春佳の根本的な不安を解消しない。段々気持ちに噛み合わなさまで感じ始める。
それでも、問いかけられたものに対しては答えなければという義務感から、春佳は何とか言葉を探し出す。
「上手く言えないんですけど……何かいつもより強引、というか……」
強いていうなら、という言葉選びだ。それでもしっくりこないものが残るが、春佳には、今の怜の印象を表現する術が他に見つからない。
それでも怜はくすくす笑うばかりだった。
「こういう感じは嫌い?」
尋ねながらも、彼の手は既に春佳の胸の膨らみを包んでは、やんわりとさするように撫で回している。こちらの答えを待つこともせず、二回目の行為を始めようとするその様は、やはりどこか浮足立っているように見える。
だからといって、それを咎めるほど度を越しているとも思えず、結局春佳は目先の質問に実直に答えるより仕方がなかった。
「怜さん相手に、嫌いも何もないですけど……正直ちょっと戸惑っています」
「そうなの?」
確かめるように首を傾げるが踏み止まることはなく、手の代わりに今度は口づけで、怜は胸を愛撫する。
それで、先ほどまでの熱がまだ残る身体はそれだけで再び昂ぶりを覚え、春佳も思わず息を漏らして反応してしまった。
「……そう言う割には、こっちは欲しがってるみたいだけど?」
空いた彼の手が下肢に下りてきて、春佳のそこを押し揉んで潤いを確かめている。
あっという間に湿り出すそこで言葉と身体が統一されない有様を突きつけられ、春佳自身も如何ともしがたい思いを抱く。
「――――このままもう一回、しちゃおう?」
こんな風に怜から誘われれば、本来なら春佳も嬉しく思うはずだった。なのに、漠然とした胸騒ぎが素直にそう思うことを阻む。
その一方で、身体の方は相変わらず怜に愛されたがっていて疼きを覚えていた。
最早自分の思考すらも整理できなくて、春佳は無性に悲しくなってくる。
そして、涙の溜まったその目を悦びと誤解されたまま、彼の求めに答えることで自らの気持ちから目を背ける。
結局それが、春佳に出来る対処の限界だった。
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