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それから怜と会わずに十日ほどが経つ。
喧嘩をしたり揉めたりしたわけではない。やはり怜の周囲で何やら立て込んでいる状況が続いていて、前回のデートの翌週に会う予定がキャンセルと相成ったのである。
彼からの断りの連絡は、土曜日当日の朝にメッセージで届いた。
已むに已まれぬ事情があるのだろう。それ自体は致し方がないとはいえ、春佳には気がかりなことがあった。
デートをキャンセルした日の前に数日遡って、徐々に怜との連絡が取りづらくなっていたことである。
平日は基本的に――たとえ短時間であっても――通話で連絡を取り合っている怜と春佳。それが水曜日頃から電話が繋がらなくなり、その代わりに時間を置いてからメッセージで、近況の報告と電話に出られなくて申し訳ないという言葉が届くようになった。そして、そこから一、二往復、文字での会話をやり取りするのが通話に代わるルーティンになりつつあった。
といっても、交わされるメッセージは殆どワンパターン。怜からは「今日も電話できなくてごめんね」「ちょっとバタバタしてる」、春佳からは「無理しないでください」「くれぐれも体調には気をつけて」といった定型文のような内容だ。
春佳としては「何があったんですか?」と更に尋ねたい思いに駆られていたが、踏み込んで良いものかどうか躊躇したまま、結局詳しいことは分からないまま。
そうこうしているうちに週が明け、今はとうとうメッセージさえも途切れてしまった。
月曜の夜に春佳が送った「お疲れ様です」「よかったらお話ししたいです」という言葉に対して、既読の表示だけはついたものの、返信がないまま水曜日を迎えてしまった。
今までにないことに不安を覚えた春佳は、その間に、追加のメッセージを送信しようか、電話を掛けようか、いっそのこと家まで押しかけようか、ひとしきり思いを巡らせた。
しかし、忙しい彼に迷惑をかけてはいけないという自制心が、結局それらの判断を思い止まらせた次第で、現在に至っている。
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