1.憧レテ、憬レル

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 その誘いにふわりとした痺れを感じたのも束の間、怜に抱きかかえられたまま身体を横倒しにされ、ベッドの上であっという間に組み敷かれる春佳。仰向けにされたその身体の上に彼が覆い被さることで、緩やかに拘束された状態になったことに気づく。  怜は両手で春佳の肩を押さえた上、足の間に膝を立てる体勢をとっていた。強い力ではないものの、こちらがどのように身を捩っても逃れる隙間は塞がれている。  もう後には引けないことを悟ると、春佳の全身に緊張が走った。呼吸さえも忘れるような切迫感に自らが気づかぬよう、ぎゅっと目を閉じて対処する。  しかし、自ら視界を封じたことは賢明ではなかった。状況を視覚的に把握できなくなったことで、不安や恐怖ばかり増幅されていくのだった。  耳に、頬に、首筋に、温かな吐息の混じった柔らかい何かが触れる。既に始まっているのだということを、否が応でも理解する春佳。  大丈夫、あれほど思い描いていたことだ、と自分に言い聞かせるが、張り詰めた神経はそれを快と認知しない。  歯を食いしばりながら耐えていると、肩を固定していた怜の手が緩み、這うように春佳の身体を撫でる。服越しの肌をなぞる感覚に春佳が震えていることに、怜は気づいているのかいないのか、その手の片方をするりと服のなかへと忍ばせた。 「……っ!」  声にならない声を上げ、春佳は閉ざしていた目を見開く。  そのまま、こちらを見ている怜と視線が合った。もとより吸引力のあるその目は潤んで、今は熱を帯びたように赤みが差し、春佳を見つめていた。その表情に、先刻まで見せていたどことなく幼い影はどこにもなく、ただ一人の男性として春佳と相対している。  それが春佳の恐怖心を煽った。 「や……っ!」  気づくと、そんな声を絞り出して、怜の肩を押していた。無論それで突き放すことができる力はなかったが、彼が春佳の異変に気づくきっかけにはなったようだ。 「春佳ちゃん……?」  怜の瞳から、一気に熱が冷めていくのを感じる。 「……やっぱり怖かったね」 「すみません、そんなことないです……!」  遠ざかるものを引き留めるように、春佳は口走る。 「続けてください、怜さん……私、ちゃんとできます……!」 「……いや、僕が悪かった。もうやめようね」  怜は春佳の上から退()き、身体を起こしてその横に座り込んだ。困ったような笑みを浮かべて、こちらを見ている。  解放されてほっとしたことよりも見限られた悲しみの方が強く、春佳の胸は痛いほど締めつけられた。 「ごめんなさい、ごめんなさい……っ、う、うっ、次は頑張ります……ちゃんとしますから……!」
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