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その誘いにふわりとした痺れを感じたのも束の間、怜に抱きかかえられたまま身体を横倒しにされ、ベッドの上であっという間に組み敷かれる春佳。仰向けにされたその身体の上に彼が覆い被さることで、緩やかに拘束された状態になったことに気づく。
怜は両手で春佳の肩を押さえた上、足の間に膝を立てる体勢をとっていた。強い力ではないものの、こちらがどのように身を捩っても逃れる隙間は塞がれている。
もう後には引けないことを悟ると、春佳の全身に緊張が走った。呼吸さえも忘れるような切迫感に自らが気づかぬよう、ぎゅっと目を閉じて対処する。
しかし、自ら視界を封じたことは賢明ではなかった。状況を視覚的に把握できなくなったことで、不安や恐怖ばかり増幅されていくのだった。
耳に、頬に、首筋に、温かな吐息の混じった柔らかい何かが触れる。既に始まっているのだということを、否が応でも理解する春佳。
大丈夫、あれほど思い描いていたことだ、と自分に言い聞かせるが、張り詰めた神経はそれを快と認知しない。
歯を食いしばりながら耐えていると、肩を固定していた怜の手が緩み、這うように春佳の身体を撫でる。服越しの肌をなぞる感覚に春佳が震えていることに、怜は気づいているのかいないのか、その手の片方をするりと服のなかへと忍ばせた。
「……っ!」
声にならない声を上げ、春佳は閉ざしていた目を見開く。
そのまま、こちらを見ている怜と視線が合った。もとより吸引力のあるその目は潤んで、今は熱を帯びたように赤みが差し、春佳を見つめていた。その表情に、先刻まで見せていたどことなく幼い影はどこにもなく、ただ一人の男性として春佳と相対している。
それが春佳の恐怖心を煽った。
「や……っ!」
気づくと、そんな声を絞り出して、怜の肩を押していた。無論それで突き放すことができる力はなかったが、彼が春佳の異変に気づくきっかけにはなったようだ。
「春佳ちゃん……?」
怜の瞳から、一気に熱が冷めていくのを感じる。
「……やっぱり怖かったね」
「すみません、そんなことないです……!」
遠ざかるものを引き留めるように、春佳は口走る。
「続けてください、怜さん……私、ちゃんとできます……!」
「……いや、僕が悪かった。もうやめようね」
怜は春佳の上から退き、身体を起こしてその横に座り込んだ。困ったような笑みを浮かべて、こちらを見ている。
解放されてほっとしたことよりも見限られた悲しみの方が強く、春佳の胸は痛いほど締めつけられた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……っ、う、うっ、次は頑張ります……ちゃんとしますから……!」
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