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この感覚はかつて勇者ダンカルバンが私に何とかいう魔法を使ったときに似ていて、あのときは頭が割れるかと思った。今ではそのトラウマももう解消され、この頭が破れそうな感覚は日本の夏の風物詩として受け入れている。
夏の風物詩といえば、畑にはみずみずしく艶やかな夏野菜たちが等間隔で実っている。
私は夏の日差しを一杯に受けながらトマトを一つもぎり口に運んだ。
「美味しい。今年のトマトは絶品だ」
採れたてというのはどんなものでも美味しい。そんな中にあっても今年のトマトは甘味があり青臭さを感じない素晴らしい出来だ。
「グスタンディヌスに少しお裾分けするか。きっと喜ぶことだろう」
庭では体長2メートルほどのケロベロスがキャンキャン吠えながら小鳥と戯れていた。ケルベロスの三つの顔はどれも楽しそうで、地獄の番犬からはほど遠く、豆柴のように無邪気だった。
私はケルベロスの三つの頭を一つ一つ撫でて餌を与えた。餌はとれたてのキャベツだ。三つは我先にと争奪戦を繰り広げるので「これこれ、順番に食べんか」と宥める。柄にも無くつい好々爺の表情で笑ってしまう。
「そろそろ私も飯を食うか。グリフォンのモモ肉を肴にワンカップでも呑もう」
近所に住む正雄さんからいただいたぬか床に、養鶏場の戸田さんからいただいた鳥のモモ肉を一晩漬けたものを焼いて食べると、これが魔界に生息するグリフォンのモモ肉の味にそっくりで美味なのである。その肉のことを私はグリフォンのモモ肉と呼んでいる。ちなみにこれは私が偶然発見したもので、グスタンディヌスに教えてやったら、日本でグリフォンのモモ肉を食べられることに驚愕して声も出ておらんかった。これは私の傑作である。
「グリフォンそのものはみそ味」私は呟いた。
「おはようございます、大魔王様」
グスタンディヌスが突然空から降ってきた。
「グスタンディヌスよ。また急に現れおって。心臓に悪いわ」
「失礼いたしました。今日は緊急の知らせがあり急いで参りました」
「知らせ?何があった?」
全身に緊張が走った。まさか私が地球の日本にいることを何処かから聞きつけた勇者が攻めて来たのではあるまいか。
「実は今朝起きて散歩しようと外に出たんです」
「それで?」
「それで、家の前のクヌギの木を見たんです」
「クヌギを?」
「すると、なんとカブト虫がいたので捕まえました。これを一刻も早く大魔王様にお見せしようと思いまして」
そういって彼は手に持っているカブト虫を私に見せた。
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