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3話 無邪気
「うわぁ!変わってない!懐かしいなあ…あっ!俺が昔あげた木彫りの人形がある!ちゃんと大事にしてくれてたんだね」
嬉しそうにはしゃぐユーゴに、少し笑ってしまう。
「あなたは大きくなったわね。熟成中の薬草の束に頭を突っ込みそうだから、座って待っててちょうだい」
「はーい」
大人しく席に付いたユーゴに、産みたての卵と塩漬け肉を焼いてパンに載せたもの、それに出来たばかりのシチューを椀に注いで出してやる。
「ああ、これこれ。この匂い、美味そうだなあ。ん、やっぱすごく美味い!俺の大好きな味だよ」
「そう?良かったわ」
少し、むず痒いけれど嬉しい。こんなやり取りをしていると、7年の空白期間などなかったかのようだ。
『絶対、騎士になってまたここに帰って来るから!そしたらお願い、俺と結婚して!それまで絶対どこにも行かないで、誰とも結婚しないで待ってて!』
泣きべそをかいていた細くて頼りない男の子が、まさかこんなに大きく育つとは。
上機嫌で何度もシチューをお代わりするユーゴを感慨深く眺めていたら、鍋を空っぽにしたユーゴは満足そうに笑って、言った。
「ああ美味かった!ありがとうシャルナ。ところで今夜は泊って行ってもいいよね?」
「え?…」
にこにこ笑う顔には、確かにあの頃のユーゴの面影がある。
だけど、引き締まった筋肉に覆われた逞しい身体は、完全に大人の男のものだ。
力では、例え戯れでも負けるだろう。
さすがにユーゴがそんな無体を私に働くとは思えないが、少しためらっていると、ユーゴが無邪気に言った。
「いいよね?だって俺はシャルの養い子だもんね?この7年、会いたくても会えなかったんだもん。久しぶりに甘えたいよ。里帰りくらいしてもいいでしょ?」
『養い子』を強調するとは、ずるい。これで断ったら逆にユーゴを男として意識している、と言うようなものだ。
「はぁ…全く、あんなに純粋で真っ直ぐだったのに。こっそり私のローブに『追跡』の魔法は仕込んでいたし、いつの間にそんなにずる賢くなっちゃったのよ、もう」
思わずため息を付くと、ユーゴは「何の事かなあ?」ととぼけた。
だけどそっちがそう来るなら、私も同じようにさせて貰う。
「分かったわ。泊まって行きなさい。そうね、ユーゴはまだ赤ちゃんだから、よしよしされないと眠れないのよね?ちゃんと寝るまで傍で見ていてあげるわ。大人しくぐっすりねんねしなさい」
にっこり笑って言うと、ユーゴは一瞬ポカンとしたけれど、すぐにニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「本当?嬉しいな。じゃああの頃みたいに一緒のベッドで寝ようよ。そしたらぐっすり眠れるよ!」
そう来たか。本当に悪知恵が働くようになったものだ。
「私のベッド、そんなに広くないから無理よ、あなたの使ってたベッドがあるからそっちに…」
そう言ったけれどユーゴは聞こえないふりで、
「あーあ、俺、今日は色々疲れたから、もう眠たくなっちゃったよ。ほら、シャルも夜着に着替えて早く寝よう?」
あくまでも無邪気な子供を装って私のローブを引っ張ったので、慌ててユーゴを浴室に押し込んだ。
「自分で着替えるわ。それより汚れた体でベッドに入らないで、って昔から言ってるでしょ。先に身体を洗って歯磨きしてらっしゃい!」
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