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アオとキイロ
十分ほど走り、二人はある工場の入口までたどり着いた。
この辺りは以前は工業地域として栄えていたが、今はほとんどの会社が廃業し、廃墟となった工場の建物だけが残っている地区だった。住宅もないので人気も少なく、地元に住むあかりも、あまり来たことがなかった。
「おい、キイロ、いるか?」
「は~い・・・」
青の少年が錆びれた工場の扉に向かって呼びかけると、〝キイロ〟と呼ばれた少年が中から顔を出した。
黄色、という名の通り、黄色い髪に瞳も黄色の少年は、青の少年と同じ位の背丈だった。白いシャツに黒のスキニーパンツという恰好で、首には黄色いスカーフを巻いていた。釣り目で生意気そうな青の少年に比べて、黄色の少年は顔の輪郭も目も丸く、少し気の弱そうな雰囲気だ。
「おかえり~アオ・・・あれ~?」
笑顔で青の少年を出迎えた黄色の少年はあかりを見た。
「見つけてきた」
青の少年はあかりを指さした。
「え~~~~~!?アオ、すごい、すご~い!」
「良いことばかりじゃない。ミドリと遭遇した。俺達を攻撃してきた」
「え~~~~!!」
感情豊かにオーバーリアクションする黄色の少年を尻目に、青の少年はあかりを工場内へ誘導した。
工場の中は教室ほどの広さで、入口から向かって正面には、どこかで拾ってきたらしいボロボロの白いソファと傷だらけの勉強机だけが置かれていた。
そして、なぜか奥にはお手製らしき花壇があり、青と黄色の花が大量に咲いていた。
「ごめんね~アオ・・・僕もついていけば良かった~・・・」
「俺だけで追い払えたから別にいい。むしろお前がいても足手まといだし」
「が~~~~ん!!」
感情豊かな黄色の少年と冷静に返す青の少年。そんな二人を見ながら、あかりは体の震えが止まらなかった。
「ねえ・・・なにここ?・・あなた達は、なに・・・?」
「・・・・・・・・」
あかりの問いに、少年達は黙って目を見合わせた。
「え~~~?アオ、何も説明せずに連れてきちゃったの~?」
「とりあえずミドリから逃げてきただけで説明する時間がなかった。今から話す」
「・・・・?」
「ここは俺とコイツの秘密のアジトだ。俺の名前がアオで、コイツはキイロ。俺たちはここで暮らしてる。さっきの緑の奴はこの場所を知らないはずだからとりあえず安全だ」
「え、ここで生活してるのって・・・君達だけで?家族は?てゆうか、さっきの人、もだし、あなたも・・・何か凄いことやってたよね・・・?」
「それは・・・・今から説明する・・より見る方が早い」
アオは花壇へ向かい、青い花を何本か引き抜いた。
「見てろ」
アオが青い花びらを手に取ると、花びらは鋭利な刃物のように尖った形に変形した。
そして、そのまま横の壁に花びらを投げつけ、花びらは壁に突き刺さった。
「見ての通り、俺たちは普通の人間と違う。こうやって、それぞれ決まった色の物体の形状、硬質を変化させることができる。さっき奴に投げつけたのも、この花びらを変形させたものだ」
そう言って、アオはあかりに自分のポーチの中を見せてきた。そこには、大量の青い花びらが敷き詰められていた。
「え・・・・?」
「俺は青色、こいつは黄色、さっきの奴は緑。髪と目と同じ色だ。そして・・・」
アオはポシェットから数枚の花びらを取り出し、その中の1枚の花びらを尖らせ、その花びらで自身の腕を切りつけた。
「きゃあ・・!」
「見てろ」
アオの腕からは青い血が流れていたが、もう1枚の青い花びらを傷にあてがうと傷はふさがり、花びらは青色から白色に変化していった。
「なにこれ・・・?」
「俺たちは自分の血と同じ色を操作することができるし、傷も色で治せる。エネルギーがなくなったら自分と同じ色を食う・・・とゆうか、色しか食べられない」
そう言ってアオは残りの花びらを口に含んだ。
「俺たちが変形したりエネルギー補給に使われた物質は数秒すると色が抜けて硬質は元に戻る。そうすると使えなくなる」
アオは花びらを投げつけた壁を指さした。壁には硬質が戻った白い花びらが刺さったまま、風にふるふると揺れていた。
「・・・・・・」
「・・・・まず!オエ・・・!」
「・・・・!?」
突然、アオは口に含んだ花びらを吐き出した。花びらは白くなっていた。
「え・・・?何?」
(自分で口にいれてたじゃん・・・)
「〝青〟の状態のときは美味い?けど、色がなくなるとまずい」
「え・・・・なにそれ」
「人間でいう、ガムっていうやつ?みたいなもんかな~?」
混乱しているあかりに後ろからキイロが解説を入れた。キイロはニコニコしてこちらを見ていた。
「・・・・・・・」
「はじめまして~。藤吉あかりさん。僕たち、ずっと君を探してたんだ~」
「え・・・?何で私の名前知ってるの?」
あかりはまた混乱した。
「あなたたちは、何者なの?何で私を探してたの?それに、さっき、命を狙われてるって・・・」
「まず、俺たちは元々こうだったわけじゃなくて、普通の人間だった。あんたの叔父・・・藤吉秋生に、研究対象にされていた」
「え・・・・?」
「藤吉ハカセは、ここから離れた山奥の家屋を研究施設にして人体実験をしていた。それに俺たちが利用され、気づいたらこんな体にされていた」
「・・・・・・・」
「もちろん、俺たちは元の体に戻すように訴えた。だが、ハカセからはデータがとれたら人間に戻すから、それまで実験に協力するようにと返されて、何もわからない俺たちはハカセに従うしかなかった」
「ハカセは、俺たちを〝色人〟と呼んでいた」
「先日、俺たちの元へ、銃を持った人間達がやってきた。どこかの組織が俺たちを狙っていたらしい」
「俺たちは自分の能力を使って逃げ切ったが、ハカセはその場で撃たれて死んだ。そして、死ぬ間際に、俺たちに遺言残した」
『私の姪である藤吉あかりの体内に、お前たちと同じ、色人の素を注入した。しかし、姪は色人になっていない。おそらく、姪の体にお前たちを人間に戻す要素がある』
「は、はあ・・・・・!?」
「だからミドリはあんたを狙ったんだ。人間に戻る為に。そして、他の色人達も、おそらくあんたを探してる」
淡々と話し続けるアオに、あかりは思わず後ずさりした。
「何それ・・・・嘘よ、嘘!絶対ウソ!!」
「嘘じゃない」
「叔父さんはそんな事するような人じゃない!それに、そもそも叔父さんが亡くなったなんて聞かされてないし、もうほとんど会ってなかったし、人体実験なんてされてない!」
「・・・・・・・」
アオはあかりをじっと見つめた。
「俺もそれが聞きたかった。今までハカセに何かされたことないか?」
「何か・・・?」
「例えば、何か薬飲まされたりとか、注射されたりとか。最近じゃなくても・・・」
「・・・・・・・・」
アオ達に警戒しつつも、あかりは自分と叔父の記憶を探った。
「・・・・あ」
「何か思い出した~?」
「・・・・前に、風邪ひいたって話したら、風邪薬を打ってもらったこと、あったけど」
「それはいつ?」
「・・・今年の二月だから、半年くらい前・・・」
「俺たちが研究されてたのもその時期だ。きっとその薬に色人の素を混ぜたんだ」
「・・・・・・・何でそんな事するのよ」
「それは俺たちもわからない。そもそも、何でこんな実験をしていたのかも。答える前に死んでしまったから」
「・・・・・・・・」
しばらく沈黙が続いた。
「よく、わからないけど・・・要はあなたたちは、人間に戻るのが目的なのね・・・?」
「当たり前だろ。俺たちは望んでこんな体になったわけじゃない。変な組織からは狙われるし、色以外のものは食えない。今の自分の体の仕組みも、寿命すらあるのかわからない」
「・・・・・・・」
「それにハカセにも言われた。俺たちが平和に暮らすには、とにかく人間に戻るしかないと」
あかりはゆっくり後ずさりした。
「・・・じゃあ、あなたも、私を狙っているのよね?」
「それは」
アオが答える前に、あかりは全速力で工場から逃げ出した。
「ハア・・・ハア・・・」
走りながら何度か後ろを振り返ったが、二人は追ってこなかった。
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