〝彼ら〟の研究と苦悩

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〝彼ら〟の研究と苦悩

『研究をすすめていくうちに、どうやら色の濃度によって発揮できる力の大きさが変わってくることが分かった。色んな種類の塗料を用意して色々試したが、どうやら彼らが一番力を発揮できるのは、最初に食べた絵具の濃度に一番近い色だと判った』 『同じ色でも、その色見みより薄く、もしくは濃くなると、変形させるときに余分にエネルギーを使うし、補給の効率も下がるらしい』 『しかし、彼らが最初に食べた絵具は兄が海外で購入したもので、話を聞くと手作りで作られたものなので、全く同じ色を手に入れることは不可能らしい』 『とりあえず、なるべく近い色みの塗料を用意して、研究を続けるしかなかった』 (お父さんの絵具が色人たちが最初に食べた絵具で、叔父さんが絵具の中身を入れ替えてたから、アオ達は中身が違うって言ってたって事か・・) 父の絵具を食べたと言われた時は混乱したが、これで辻褄が合ってきた。 『研究をすすめていくうちに、彼らの能力にはそれぞれ特性があることが判った。それもウイルスの効力なのか、それとも元々の才能なのか・・・』 『それぞれ一長一短ではあるが、私は彼らをより成長させるために、あえて順位をつけることにした』 『その基準は、身体能力、頭脳、精神力、など総合的に見て私の基準で順位をつけた』 『まず、一位は総合的に見てバランスが良く、メンタルも常に安定しているシロ』 『二位はクロ。シロ同様に総合力が高いが、日によって成果に差が出るときがある』 『三位はチャイロ。身体能力は飛びぬけているが、頭が悪すぎる』 『四位はミドリ。総合力は決して低くはないものの、感情的になりやすく、余計なミスが一番多い』 『五位はアオ。見た目の年齢の割りに頭脳、精神力は高く評価できるが、体が小さいせいで、身体能力は上位の色人より圧倒的に劣る』 『六位は知力、体力も全て平均以下のキイロ。ただし、性格は素直なので、一番扱いやすい』 『人間社会のように上位の者は優遇し、下位の者には雑用や片付けなどを命じ、その様子を観察した』 『研究をすすめる中、佐久間から連絡が入り、このウイルスに効くワクチンと特効薬が存在することが判った』 『私の読み通りだった。軍事企業が関連してるということは、おそらく戦争や内戦、侵略、テロなどに武力として使用する為の研究だろうと考えていた。しかし、ウイルスの取り扱いは非常に難しく、輸送中に自分達が感染する危険性があるし、脅迫目的に使うとしても、ワクチンや薬がなければ交渉材料にはならない』 『そして、佐久間にその薬とワクチンを極秘で入手させた』 『どちらも入手が困難で、一つずつしか手に入らなかった。ワクチンは当然私が接種したが、問題は薬だ』 『この薬で彼らは人間に戻る・・・はずだが、しかし、この薬の臨床試験は終わっていない。被験者たちが逃亡したからだ。薬で人間に戻れるというのは、あくまで理論上の話であって、安全性も保障されていない』 『もし、万が一、この薬で色人が死んだりしたら・・・?彼らは、間違いなく私に牙を向けるだろう』 『そこで、私はある方法を考えた』 『ある人間にウイルスを投与し、そしてこの薬が有効か試すのだ』 『そして、その対象を・・・私の姪である、藤吉あかりに決定した』 『親戚といっても、元々何の情もない。兄も半年前に亡くなり、私の邪魔をする人間はもういない』 『風邪を引いたという姪に、風邪薬と称して色人の血液から抽出したウイルスを投与し、残っていた兄の赤い絵具を飲ませた』 『しかし、数時間経っても、翌朝になっても、姪は色人にはならなかった』 『混乱した私は姪の血液を採取し、持ち帰った』 『すると、姪の血液には、ウイルスが存在していなかった』 『どうゆうことだ?被験者の彼らが特別な体質なのか?』 『しかし、私と佐久間から採取した血液にウイルスを投与すると、中でウイルスは増殖していた』 『どうやら・・・姪の体が特殊らしい』 『姪の体を詳しく調べたいが、私も色人の研究に忙しく、たまに電話でコンタクトをとることしかできなかった』 『何日経っても、数カ月経っても体に変化はないようだった』 『そして、佐久間が調べをすすめていくと、この薬には、ウイルスを滅する効力がないことが判明した』 『臨床実験をするまでもなく、研究の段階で判ったらしい・・・とんだ無駄足だった』 『姪にも変化はないようだったし、気を取り直してまた色人の研究をすすめることにした』 『日が経つにつれ、色人同士の関係に変化が現れた。まず、中間層のチャイロとミドリは自分より下位のアオやキイロを見下すようになった』 『そして上位のシロは、下位の者を侮蔑することはなかったものの、目指すものがないせいで、どこか無気力になっていった』 『クロも、シロと同じような悩みを持っていたようで、自分より一つ上のシロに執着するようになった』 『そして、ミドリ、アオはまだ自分を向上させることを諦めていないようだったが、最下位のキイロは完全に努力を諦めていて、唯一自分の相手をしてくれるアオを崇拝していた』 『順位をつけたことで色人同士の人間関係やヒエラルキー、愛、嫉妬、怒り、憐れみ、様々な感情が浮き彫りになり、非常に面白い。やはり、どこまで行っても人間は美しく、それと同じくらい、醜い生き物なのだと気づかされた』 『私の目には、彼らの愛や成長が直視出来ないほどに眩しく、色鮮やかに映るときもあれば、彼らの嫉妬や焦燥や侮蔑が、目を背けたくなるほど小汚く、澱んで映るときもある』 『・・・・・そして、私の人生についても、最近よく考えるようになった』 『私の人生は、とても惨めで、孤独なものだと思っていた』 『尊敬する父からはどれだけ努力しても認めてもらえず、心を預けられる人もいない。だから不幸なのだと思っていた』 『しかし、最近は、そうではないかと思うようになった。私よりも不幸な境遇である色人達に、絶望感はないからだ』 『なのに何故、私はずっと不幸だったのか・・・・』 『・・・・それは、私が、自分を認め、愛していないからだ』 『世界中の人間に支持されていても、自ら命を絶ってしまう者もいる。天涯孤独でも、問題なく天寿を全うする者もいる』 『自分で自分を愛することさえ出来れば、誰からも愛されなくても、必要とされなくても、きっと幸福なのだ』 『そして、それは、何千人、何億人に愛されることと同じくらい、もしくはそれ以上のものなのだろう』 『・・・・しかし、その事実に気づいたとて、今更どうしていいかわからない。私には、誇れるものなど何もない。自分の愛し方など、誰も教えてくれなかった』 『確かに父と同じ大学に行くことはできた。しかしそれが何だ。私より賢い人間など、この世にいくらでもいる』 『私には、何もない。今更、どうしようもない。しかし、ここで逃げ出すわけにもいかない・・・』 『もし佐久間が逃げたとしても、私は逃げない。最後まで、彼らの研究を続ける・・・』 その言葉で、動画が終わっていた。
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