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あかりの母
次の日。
「昨日は変な目にあった・・・・」
学校からの帰り道、あかりは溜息をついた。昨日の事件のせいで、今日は人が多い大通りから帰ることにした。
昨日、家に帰ってから叔父の携帯に電話してみたが、つながらなかった。
叔父はあかりの父の弟にあたるが、叔父は独身で父方の祖父母も亡くなっている為、共通の親戚も知り合いもいなかった。
(叔父さんと会ったのは・・・確か、あの風邪薬打ってくれた時が最後かな・・・?)
その後は、たまにあかりの体調を気遣う連絡をくれたが、直接会うことはなかった。
(家は・・・勤め先の寮に住んでるって言ってたから住所わからないし、勤め先は隣町の薬局って言ってたけど・・・)
しかし、ネットで検索したら出てこなかった。どうやら、今は潰れてなくなっているらしい。
(うちの親には叔父さんの話できないし・・・・・)
空を見つめ、あかりは溜息をついた。
(もし、叔父さんが本当に殺されて行方不明なら、警察に言うべきなのかな・・・?)
(でも、何の証拠もないし・・・)
警察に色人のことなんて話しても、信じてもらえるとは思えない。そして、昨日の緑の男が、また自分を狙ってくるかもしれない。
(あの男だけじゃない。あの男の子達もそうだし、なんか他にもいるみたいだし・・)
「これからどうすればいいの!!もお~~~~~!」
「うわっ」
後ろから子供の声が聞こえ、振り向くとキイロが立っていた。
あかりは青ざめた。
「キャーーーー!!」
「待って、待って!逃げないで~」
絶叫しながら逃げるあかりをキイロが引き留めた。
「ハア、ハア・・・」
キイロは息を切らしながら黄色の花びらを口に含み、呼吸を整える。
「な、なに!?つけてたの?」
「うん、ごめんなさい~。アオにはこっそりやれって言われてたけど、急に大声出すからびっくりした~!で、でもアオには言わないでぇ~」
昨日の様子からも伺えたが、どうやらキイロはアオに頭が上がらないらしい。あかりは周りをキョロキョロ見渡した。
「てことは、今はあの・・・青い子はいないのね?」
「うん、いないよ~。今は、昨日のアジトで休憩してる~。これから二人で交代であかりちゃん見張ろうって~」
「見張るって・・・じゃあ今日ずっとついてきてたの?」
「うん~」
あかりは溜息をついた。しかし、昨日と違って今日は周りに通行人がいる。こんな所でいきなり襲うことはさすがにしないだろう。
周りを警戒しながら、二人は並んで歩いた。
「はあ・・・勘弁してよ。こんな事いつまで続けるの?」
「でもまたミドリが襲ってくるかもしれないし~」
「ああ・・・自分たちの獲物取られたくないもんね」
「そ、そうじゃないよ~!昨日言いそびれたけど、僕もアオも、あかりちゃんを守りたいと思ってるんだよ~!」
「・・・・・・!」
おとなしい雰囲気だったキイロが急に叫びだし、あかりはびっくりした。
「あ、あ~。・・ごめん、急に大声出して~」
「いや、いいけど・・・・その、守りたいって?」
「・・・確かにハカセはあかりちゃんの体に人間になるヒントがあるって言ってたけど、アオはあんまり信じてないみたい~」
「・・・・・・どうして?」
「そもそも僕たちで色人のデータは十分とれてるはずなのに、身内のあかりちゃんをわざわざ色人にする意図がわからないって~」
「・・・・確かに」
「でも、僕たちにこんな事教えたらあかりちゃんが危ない目に合うって想像つくはずだから、あかりちゃんと何か嫌なことがあったんじゃないかって~」
「えっ・・・叔父さんは私の事が嫌いだから、私の名前出したってこと?」
「わからないけど、何か心当たりない~?」
「恨みも何も、しょっちゅう会ってたわけじゃないし、恨むようなことはしてないはずだけど。その風邪薬打ってくれたときだって、私の体調心配して結局朝までついててくれて・・・」
確かに叔父との思い出は多くはないが、会うたびあかりに優しく微笑んでくれていた。そんな叔父が、人体実験していたなんて、とても想像できない。
しかし、彼らが嘘をついているとも思えない。
(・・・もはや同姓同名の人違いなんじゃ・・・?)
「何一緒に歩いてんだ」
急に後ろから不機嫌な声が聞こえた。アオだ。
「アオオオオオ~!?ごめんなさああああい~」
「キイロ、お前バレないように護衛しろって言ったよな?何で並んで一緒におしゃべりしてんだ」
「ご、ごめんなさああい~!!謝るから、ドゲザでも何でもするから見捨てないでええ~」
泣きながらアオに縋りつくキイロを横目に、あかりはアオに向き合った。
「私の知ってる叔父さんは人体実験なんかするような人じゃない。だから、どうしてもあなたたちの言うことが信じられない」
「別に信じなくていい。俺たちは嘘ついていない。ただ、あんたのことを他の色人達も探してる。俺たちはバラバラになった色人を集めたい。逆にあんたを張ってれば他の色人達と再会できる可能性が高い」
「・・・集めて何をするの?」
「人間に戻る方法を一緒に考えたい。だからそれまではあんたを張ることにした」
「え!ずっとつきまとうつもり!?」
「ずっとじゃない。色人だってバカじゃないから、周りに人間がいるような状態では襲わない。実際、昨日のミドリも人気のない場所で狙ってきただろ。ケーサツっていうのを呼ばれても困るからな。だから帰り道とか家とか」
「家までついてくるの!?」
「外で見張ることにする。あんただって殺されたくないだろ。俺たちだって、あんたに何かあったら、色人を集められなくなるから困る」
「・・・・・」
とりあえず彼らがあかりを殺すつもりがないことはわかった。まだ全部は信用できないが・・・.。
軽いめまいを覚えながらもあたりを見渡すと、駅前にある時計台が目に入り、今の時刻を知ったあかりは一気に青ざめた。
「あ!もう、こんな時間!バイト!!」
「ばいと~?」
「学校の後はいつも働いてんの!言っとくけど、学校とバイトは休めないからね!!」
「ガクセイなのに働いてるの~?」
早足になったあかりを追いかけながらキイロは尋ねた。
「普通に学生でもバイトしてる人は多いと思うけど・・・私は生活費稼がないといけないから」
「セイカツヒ?ガクセイって親とセイカツするんじゃないの~?ガクセイの間は親のお金でセイカツするって聞いたけど~」
「うちの親、あんまり働けないから、お金がないの・・」
「何で?ビョーキ~?」
「病気ってゆうか・・・・一応近所のスーパーで早朝パートとかはしてるけど、病院通ってるしフルタイムでは働ける状態じゃないの」
「へえ~。親が働けないと、子供が働くんだね~」
「・・・一応、色々補助とか手当はもらってるけど、私は大学にも行きたいから学校終わったらバイトしてお金貯めてるの・・・時間ないから走って行くね」
そのままあかりは走ってバイト先に向かった。
その日、あかりは夜まで働き、帰り道はなるべく人通りのある道を選んで帰った。
外で待ち伏せされているのかと思ったが、色人達は現れなかった。
(気配とか感じないけど・・・つけてきてるのかな・・)
正直、彼らに聞きたいことはたくさんある。しかし、まだ彼らを信用できたわけじゃない。今はあかりに危害を加えるつもりはないようだが、もしかしたら仲間を集めて自分を殺すつもりなのかもしれない。
(・・・こんな事、いつまで続くんだろ・・・)
(夜ご飯用意するの面倒だな~・・・カップ麺でいいか・・・)
「ただいま~」
家についたあかりは、リビングにいる母に声をかけた。
「おかえり・・・ご飯用意できてるよ」
やせ細った母は、そう言ってあかりに笑いかけた。
「あ、ご飯用意してくれたんだ。ありがとう」
「今日は調子良くて・・・」
あかりの母はなるべく家事をやるようにしていてくれるが、調子の悪い日は何もできない日もある。
あかりは自分の部屋で部屋着に着替えてリビングに戻り、遅めの夕飯前に手を合わせた。
母もあかりの向かいに座り、ニコニコしながらあかりを見つめている。
「あ、この前の試験の結果が良くてさ、このままの成績キープできたらN大の推薦狙えるかもって」
「本当?凄いじゃない」
「任せてよ。N大は奨学金制度もあるし、商社への就職にも強いらしいんだよね~」
「・・・そう。あかりは、凄いわね。私は学生のときなんて、全然勉強もできなかったのに、私の子だとは、思えないくらい・・」
(あ、やばい・・・)
うつむく母の表情を見て、あかりは焦った。
「た、たまたまだよ。私がエリート商社マンになって、たくさん稼ぐから。楽しみにしててよ。そしたら、もっと広いマンション住もうね」
「それは嬉しいけど・・・絵は、もういいの?今の高校にだって、美術部あるでしょ?」
「あー・・・絵は、もういいかな。中学の時、部活の先生にはっきりいわれたもん。才能ないって。色使いは悪くないけど、デッサンめちゃくちゃだって。失礼しちゃうよね(笑)」
「でもお母さん、あかりの絵、好きだったよ。あの、白い子犬の絵とか」
「・・・風車のつもりで書いたんだけどね。まあ、今はバイトの方が楽しいから、部活も入らない。それより勉強したいし」
「・・・・そう、あかりはしっかりしてきたのね。小さい頃はうどん屋になりたい!とか言ってたのに・・・フフ」
「違うよ、蕎麦屋だよ。蕎麦が好きだったから。まあ、絵も蕎麦作りも趣味で十分できるし。また今度の休み、蕎麦作るね」
「楽しみね・・・フフ」
母は嬉しそうに笑い、あかりは一安心した。
あかりとあかりの母が住むマンションは、いわゆるファミリー向けの公営住宅で、賃料は安く間取りも二人暮らしには部屋が余るほどだが、駅からは少し遠いし、治安もあまり良くない。
(高校とバイト先は家から近くて良いけど・・・・)
将来、お金をたくさん稼げる職に就いて母と良いマンションに引っ越して楽をさせる。それがあかりの夢だった。
次の日。
あかりはいつも同じように登校した。一応周りを見渡しながら警戒していたが、色人達は見当たらなかった。
(まあ、登校中とか、学校にも絶対人いるし、襲わないよね・・・)
下駄箱を開けて上履きを取り出すと、一枚の写真が落ちた。
「え・・・?」
拾って見ると、それは、あかりの母の写真だった。
パート中に隠し撮りしたものらしい。
(なに、これ・・・・)
急にあかりの動機が早くなる。
震える手で写真を裏返すと、裏に緑色の文字が書かれていた。
〝アオノアジトノバショヲカイテオケ。オシエナイトオマエノハハヲネラウ〟
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