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チャイロのテリトリー
あかりがチャイロに連れてこられた先はバイト先から大分離れた広い雑木林の中にある、木製の小さな小屋だった。
「・・・・ここは」
「オレノ・・・カクレガ」
どうやらチャイロの手作りのようだ。数人入れるかどうかというくらい小さい小屋だった。
(そっか、木材を変形させて家も建てられるのか・・・・)
あかりの手首には、木で造られた手錠が巻かれていた。腕を拘束されていては、隙を見て逃げ出すこともできない。
おまけに、この森はとても広く、入口から大分歩かされた。
(仮に逃げ出せたとしても・・・出口がどこかわかんないし・・・)
「オレ・・・人間ナル・・オマエヲタベテ・・・」
そう言って、チャイロはあかりの肩を掴んできた。
「え!」
(早速!?)
「ちょっと待って!話を・・・」
「ソンナ時間ナイ。他ノ色人、来ルマエ二・・・」
そう言ってチャイロが口を開いた瞬間、あかりの目の前の景色は一変した。
「よお、チャイロ」
アオが屋根上から襲撃し、雑な造りだった小屋は崩壊した。アオは持っていたブルーシートを変形させ、チャイロを捕らえた。
「・・ぐう・・・オマエ・・・アオアオ」
「その変な呼び方やめろっつたろ」
チャイロを押さえつけながら、アオはあかりを見た。
「おい、キイロと逃げろ!」
「え」
「ここはこいつのフィールドだ!コイツはとりあえず俺が取り押さえる。その間に逃げろ!」
「あ、あかりちゃん逃げよ~」
アオの後ろからひょっこり現れたキイロがあかりに巻きついた木の枝を黄色の花びらで切断し、あかりの手を引いてきた。
アオの様子が気になるが、いちいち気にしていては逃げ遅れる。あかりはキイロと共に、崩壊した小屋から逃げ出した。
「オマエ・・・ナゼコノバショがワカッタ?!」
「あいつには発信機つけてんだよ」
「・・・ハッシンキ」
「ハカセが俺たちにつけてたやつ。何かの役に立つかと思って、ハカセが予備に作ってたやつくすねてた。それをネックレスに加工して、あいつにつさせてた」
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「アオ~!アオ~!」
とあるビルの一室。ここは取り壊しが決まっているビルで、中に人はいない。前回の反省を生かして、アオ達は取り壊しが決まったビルや、アパートなどの空室に忍び込んでアジト代わりにしていた。
アオがアジトに戻ると、発信機の機器を持ったキイロが駆け寄ってきた。
「も~!アオ、戻るの遅いよ~!大変なんだから~!」
「遠出するから戻るの遅くなるって伝えたろ。何だよ?」
「あかりちゃんが!あかりちゃんが~!」
アオが機器をのぞきこむと、あかりにつけていた発信機が反応していた。
「おかしいよ~。まだバイト終わる時間じゃないのに~」
「・・・ソウタイってやつじゃねーのか?」
「家と逆方向だよ~」
あかりの発信機はかなり早いスピードで動いている。あきらかにおかしい動きだ。
「・・・行くぞ、キイロ」
「・・・・うん~!」
こうしてアオとキイロはあかりの元へ駆けつけることができた。
アオはブルーシートを変形させ、何重にも重ねてチャイロを包み込んだ。
(息できないと死んじまうから、どこか穴開けて・・・)
もちろん、この状態で逃げ切れるとは思ってもいないが、とりあえず時間稼ぎができれば良かった。
しかし。
白くなったシートから木の枝が突き出し、そのままシートを引き裂いた。
「なっ・・・!?」
アオは驚愕したが、すぐにシートから離れた。
シートから木の枝を咥えたチャイロが姿を現した。
「お前・・・それ・・・」
「ア・・アオアオ二、ツカマルマエニ・・・モッタ」
どうやら襲撃の瞬間に、飛び散った木の破片をとっさに掴んでいたらしい。
(やばい・・・とりあえず、離れないと・・・)
アオは全力で駆け出し、その場にはチャイロだけが残された。
「アオアオ・・・ホットク・・・・キイキイタチ、オウ・・・」
そう呟き、チャイロは二ヤリと笑った。
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「はあ・・・はあ・・・」
キイロはあかりの手を引っ張り、力の限り走っていたが、途中で息を切らしていた。
「あの・・アオ、くん・・・は大丈夫・・かな?」
「僕も心配だけど、あかりちゃん守らないと怒られるから~」
「・・・ごめんなさい、また捕まって・・・」
「あかりちゃん悪くないよ~。とりあえず、この森抜けないと・・・・」
息を切らしながら話していると、木陰から複数の木の枝が二人に向かって伸びてきた。
「うわ・・・!」
キイロは即座にあかりを突き飛ばし、木の枝にキイロが捕らわれた。しかし。
「チガウ・・・オマエジャナイ・・・」
キイロに巻きついた木の枝は更に分裂し、尻もちをついていたあかりの方へ向かった。
「あかりちゃん!!」
逃げるすべがないあかりは思わず目をつむってしまった。
「・・・・・・!」
あかりが目を開けると、目の前にはアオが立っていた。
アオの手元には尖った形状の白い花びらがのびており、アオが木の枝を切断してあかりを助けてくれたことを理解した。
「ア、アオ・・・・・」
木の枝に縛られて倒れていたキイロの方へも変形させた花びらを数枚投げつけ、キイロは解放された。
「アオ~!」
アオへ駆け寄ったキイロに、アオは小声で伝えた。
「逃げるぞ!」
アオはあかりの手を引いて、三人は走り出した。
「二・・・ニガサナイ・・・!」
チャイロは地面に両手をついた。
「やばい、飛べ!」
「へっ?」
アオは寸前で木に飛び乗り、あかりに手を差し出したが間に合わず、あかりは地面に突っ伏した。
「い、痛い・・・」
地面に手をついて立ち上がろうとしたが、顔が地面に粘着して離れない。
「こ・・・これは・・・」
「前に伝えた、チャイロの特性だ!奴は、物体の粘着度を変えることができる!」
チャイロは不敵に笑って、そのまま地面に手をつけたまま、あかりの周りの土を変形させ、あかりの上に覆いかぶせようとした。
「・・・・・・!」
アオは木に捕まったまま、手持ちの塗料を片手でブーメラン状に変形させ、チャイロの両腕に向かって投げつけた。
「・・・・!!」
チャイロは驚いて地面から手を離し、あかりにかぶさろうとしていた土は無効化した。
「おい、立てるか?」
「あ・・・うん」
地面の粘着もなくなり、あかりは立ち上がった。
「アオアオ・・・ジャマ・・」
チャイロは横の木に手をかけ、太い木の枝をアオに向かって伸ばし、アオも地面に降り立ち、硬質化した花びらで木の枝を切り落とした。
ふたたびチャイロは、また別の木に手をかけ、太い枝をアオに向けて伸ばしてきた。
(花びらだと斬れないか・・・・)
アオは塗料で大きな剣を作り、枝を切り落とそうとした。が。
チャイロの特性によって粘着度が増した木の剣にアオの剣は取られた。
(やばい・・・・!)
チャイロもまた他の大木に触れて攻撃を仕掛け、アオは剣を離し、また別の塗料で大きな盾を作った。
(やばい・・・もう、塗料が無くなる・・・)
応戦しながらも、後ろにいるあかりに声をかけた。
「おい、とりあえず早く逃げろ」
「そ、そうしたいんだけど・・・足が痛くて」
「え?」
「さ、さっきので・・足、くじいたかも」
あかりの方を振り返ると、痛そうに足を庇っていた。
「・・・・・っ・・・これはやりたくなかったが、」
アオはバーナーを取り出し、チャイロから伸びてくる木の枝を燃やした。
「・・・・・!?」
バーナーの火は枝をつたってチャイロの腕に燃え移り、混乱したチャイロがひるんだ隙に、アオはあかりを支えながら走り出し、キイロも後に続いた。
チャイロが見えなくなる場所までたどり着き、周囲を警戒しながら、あかり達は腰をおろした。
「地面に立つとさっきみたいなことになる。奴が地面に手をかけたら、すぐに木に飛び乗らないと・・」
「ア、アオ~これからどうするの~」
「どうしようもない」
「え、ええ~!!」
「・・・森はアイツのテリトリーだ。この森は大分広くて、資源は豊富にある。それに比べて俺たちは、持ち運べるくらいの花びらと、塗料も残り少量しかない」
「さ、さっきみたいにバーナーで全部焼いちゃえば~」
「こんな場所でそんな事したら山火事になる」
「そ、そんな~」
「・・・・今の俺たちの状況は、水の中でワニと格闘してるようなもんだ」
「・・・・こうゆう場合、対処法は限られてる。敵が追いつけない所まで逃げるか、自分たちのテリトリーに引きずりこんで倒すか」
「でも、ケガ人がいる以上、全員で逃げ出す事は困難だし、アイツは今、大分興奮してる。仮にこの森の外まで逃げ出せても、他の人間の前で暴走されては困る」
「じゃ、じゃあ、どうすれば~」
「そうなれば取れる選択肢は一つだけだ」
「な、何~?」
アオはキイロをまっすぐ見つめた。
「・・・・敵と互角に戦える助っ人を呼ぶしかない。・・・・ミドリ連れてこい」
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