クラスのあの子

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 ある日の昼休み、美雪さんは絵を描いていた。A線の、至って何の変哲のないノートになにかを描いていた。  それが何かは分からないが、美雪さんがあまりにも熱中しているものだから私は後ろの席から眺めていた。  まあ、綺麗な長い黒髪くらいしか見えなかったが。  しばらくそうしていると、クラスの明るめの女子たち3、4人が美雪さんの席に集まってきた。美雪さんは美人で、女子からも人気があったからよく色々な人と話していたのだ。 「霜島さん、よかったら私の似顔絵とか描いてくれない?」  絵が上手な人は、よくクラスメイトの似顔絵を描かされる。それが絵の上手な人間の義務だとでも言わんばかりに。  美雪さんは綺麗な声で「いいよ」と言うと、またペンを取り、ノートに向き合った。  すごく真剣に描いているのが、後ろからでもわかる。どんな素晴らしい絵を描くのだろう──そう思っていた三秒後。 「描けた」 「えっ?早いね、さすが霜島さ……」  美雪さんが絵を見せると、その女子は口をつぐんだ。  何故か、いきなり口チャックされたみたいに黙り込んだ。 「どう?上手くかけたと思うけど……」  周りにいた女子が、苦笑いを作る。明らかに困惑しているのが伝わってきた。 「あ……ありがとう。じゃあね」  そういって、女子たちは美雪さんの席から帰っていった。  せっかく描いてもらったのにそれはないんじゃないか、と私は思った。「すごーい、上手だね」と言ってあげればいいのに。  しかし、あの子達はそんなに性格が悪いわけじゃない。すごいものはすごいと、きちんと言える子たちのはずだ。  私は、溢れ出る好奇心を抑えきれなかった。どんな絵なのだろう。知りたい。  私は、美雪さんの席の隣を通るふりをしてノートを盗み見た。 「……!」  危うく声が出るところだった。確かにそこに似顔絵はあった──あれは似顔絵なのだろうか?  点が二つ、線が一つ。目と口だけ。    小さい子がお絵かきで描くような、そんな絵だった。  もちろん、美雪さんはふざけてそれを描いたわけではなかった。とても真剣に、描いていた。  それどころか、真剣に描いた絵を褒めてもらえなかったからだろうか。美雪さんはとても不思議そうな顔をしていた。  私は恐ろしいことに気づいた。  もしかしたら、美雪さんには、クラスメイトがに見えているのではないだろうか。  点二つと線一つ。  それくらい、興味がなくて、どうでもよくて、取るに足らない存在。  そこにいるのが当たり前みたいに、興味を向けることに意味もない。
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