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砂糖祭り当日は、雲一つない晴天だった。まさに祭り日和。
出品された砂糖菓子たちのパレードは、街をぐるっと一周して、宮殿にやってくる。宮殿前の広場であらためてひとつひとつ紹介され、招待客やイズディルの要人からの投票で一席を決める。
広場に設置された観覧席のおれの隣で、アスランがむすっとしていた。王族の表情管理はどうした。
「……スルタンになって、毎夜毎夜砂糖をすり潰すことになるとはな。こうなると、母上がご存命でなくてよかった。あんな姿、とてもじゃないが見せられない」
そう、大量の粉砂糖を使ったおれの菓子が完成したのは、毎晩のおつとめの前にアスランが砂糖をごりごりとすり潰して、粉にしてくれたおかげだった。
「今でもごりごりという幻聴が聞こえるくらいだ……」
「その分あれやこれや要求したくせに」
おれがぼそっと呟くと、アスランはあからさまに顔を背けた。こ、こいつ。
そうこうするうちに、おれのシュガークラフトが運ばれてきた。
おれは、アスランが幻聴を聴くほどすり潰してくれた粉砂糖に、水、卵白などを加えて練って、薔薇と矢車菊とチューリップを作った。イルディズではその三つの花が神聖とされているからだ。
花の周りにあしらったリボンの、レースのような模様は、蝋引きされた紙で作ったコルネに入れて、ひとつひとつ絞り出した。このテクニック自体がこっちの世界では知られていないから、他にやってる奴はいないはずだ。
案の定、おれの細工を目にした沿道の観客が、ざわめき始めた。
「あれ、本当に砂糖細工か?」
「まさか。本物だろう」
「どうやったらあんなに繊細な砂糖細工が作れるんだ? それに、あの獅子。まるで今にも動き出しそうじゃないか」
獅子、という言葉が聞こえたのか、アスランが面を上げた。
そう、花だけじゃ弱いなと思ったおれは、花の中でゆったりと寛ぐライオン像も一緒に作り上げていた。
最近〈アスラン〉がライオンのことだって知ったからだ。おれが異世界からきたと知らない親方には「今ごろか」と呆れられたけど。
獅子も花も、作り甲斐のあるモチーフだった。
それに、花と獅子は、アスランの治世を讃えるのにぴったりだと思った。花のような美しさと、獅子のような力強さ。本人に言うのはなんか癪に障るので、今日までひた隠しに隠して見せていなかった。
たぶん、獅子が誰を意味観するのか、観客にも伝わったと思う。
広場に設けられた観覧席からアスランが見ていることに気がつくと、誰からともなく拍手が始まる。やがて広場は大きな拍手に包まれた。
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