砂糖祭り

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 結局、おれの作品は、一席に選ばれた。  おれの手柄=アスランの手柄だから、近隣諸国に豊かさと技術力を見せつけるという責任は、十分果たしたと思う。  実際、 「聞いていた話と違うな。スルタン・アスランは、その、ご気性にやや問題があると……」 「ええ、ええ。なんでも、歴代皇子の呪いで夜な夜な暴れ回ると私も聞いておりましたが」 「鷹狩りは何度も中止になりましたから、てっきり砂糖祭りも行われないかと思っておりました」 「しかし、今日の采配は見事なものでしたぞ。政治能力に問題があるというのは、単なる噂だったということですかな?」  外国使節団の席からそんな声が聞こえてきて、おれは密かに拳を握った。  心地よい高揚感に包まれたまま、夜の宴が始まる。  おれは料理と配膳を手伝っていた。スルタン専属菓子職人にはなったけど、料理は楽しいし、最初からおれに調理を任せてくれた親方には恩があるから、こっちの仕事も疎かにはできない。  昼の品評会同様、ここでのもてなしもスルタンのセンスを問われる。  おれは作品作りと並行して、宴でのデザートメニューも考えていた。結構なハードワークだ。ちょっと砂糖をすり潰して幻聴を聞くくらい、安いもんだと思う。  宴は、大広間に見事な織りの絨毯と、やはり見事な織りの布地を使ったクッションを敷いて行われる。アスランを上座に、招待客たちが方形に座って、中央に料理の大皿を運ぶスタイルだ。  アーモンドのスープ、海鮮のサラダ、羊の丸焼き、茄子のペーストの上にトマトで煮込んだ牛肉が載ったもの、等々、豪華な料理を次々に運んでいく。 「ウミト」  やがて、親方がおれに耳打ちした。おれの担当したデザートの準備が整ったという合図だ。おれは頷いて、デザートを宴会場に運びこんでもらう。  いつもはチャイに使う器に、氷室の氷を使って作った薔薇水のシルベット、ジュレ、細かく崩したバクラヴァと薔薇のアイスを重ねたデザート――  パフェだ。  ひとつひとつは珍しいものじゃない。  だけど、こうやって色んな味と食感を重ねた〈パフェ〉は、実は日本独自のもの。欧米には元々なかった文化だ。  こっちの世界にも存在しないということを、おれはぬかりなく調べてあった。  パフェのてっぺんには、シュガークラフトの小さな薔薇を散らしてある。出品用を作りながら、ちまちまと作っておいたものだ。大物を作ることにくらべたら、こんなのは簡単で、むしろ息抜きに楽しみながら作っていた。  だけど、宴に出席している宰相や、他国の大使っぽい人たちは目を見張っている。目新しいことに加えて、この小ささ、繊細さが受けているんだろう。 「これは……」 「次から次へと新しい味が出てくる!」 「いやあ、素晴らしい」 「この薔薇の美しいこと。こんなに小さいのに、まるで本物のようではないですか」  食感の違いがこっちの人にもウケるのは、アスランに出したバクラヴァで実証済みだったけど、実際に反応を見られると安心する。  偉そうなひげ面のおっさんたちが和気藹々と甘い物を食べるって光景も、あっちの世界ではないことだ。  内心にやにやしながら聞き耳を立てていると、不意に、女の声が響いた。   「ふん、呪われたスルタンが」
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