呪われたスルタン

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呪われたスルタン

「異世界に来てまでパワハラとか……」  ぶつくさ言いながら、おれはとぼとぼ廊下を歩いていた。  暑いからか、ハレムはあちこちに中庭を設けて、風を通す造りになっている。中庭に面した外廊下の柱の影が、白い大理石の廊下に落ちていた。天井が高い、贅沢な空間。厨房に毎日立てるのが嬉しくてすっかり忘れていたけど、こういうところを通ると、異世界に来たんだなあと久し振りに実感する。 「ここか……」  おれは指示された部屋の前にたどり着くと、ごくりと息を呑んだ。正直ちょっと緊張している。だって一国の王なんてものに会うのは初めてだし、しかもそれが信長タイプときたら、ちょっとくらいびびるのは許して欲しい。しゃれこうべの器で酒を飲まされたりするんだっけ? あ、この世界酒はないわ。じゃあ大丈夫か。  おれは親方から渡された鍵を取り出した。スルタンは、この部屋にこもる期間、外から鍵をかけさせるのだそうだ。ほんとに変わってる。  しかし、ひと月のうちの数日必ず機嫌が悪くなるなんて、発情期みたいだな。そう考えて、思い至った。  こっちに来てから一週間、楽しくてすっかり忘れていたけど、おれ、次の発情期いつだっけ。  ん? そもそも転生って、オメガ属性持ったままするのか――??  ふと浮かんだ疑問に気を取られながら、おれは小部屋の扉に鍵を差し込んだ。 「失礼しま――」  アルファがいる。  ハレムの一室。灯りもない暗闇に一歩足を踏み入れた瞬間、おれにはわかった。   次の瞬間、体は甘い痺れに捕らわれていた。逃げなきゃ。そう思うのに、足がいうことをきいてくれない。 「……おまえは一体、なんだ?」  豪奢な織のカフタンに身を包んだスルタン――アスラン・イルディミールが問う声は、苦しげだった。  戸惑いに満ちた空気の匂いは、一瞬で隠微なものに変わる。  逃れられない。  信じられないくらい体が疼いて止められない。  頭では否定しているのに、魂は欲している。これから、この男に抱かれるのだ。  突然腕を強く掴まれて、部屋の中に引きずり込まれる。食事の載った銀盆が手から滑り落ち、スパイスの匂いが漂う。 「ちょ、ま、――」  相手が国で一番偉い人だなんてことも忘れて、おれは抵抗した。だけど、スルタンの腕の力は強く、簡単に抱き寄せられてしまう。  厚い胸板を感じた瞬間、ぶわっと甘い香りに包まれた。  う、わ……!!  汗のような、花のような、酒のような――むせかえる匂いって、こういうことなんだろうか。  全身が総毛立ち、ぶるっと震える。下肢がどくっと波打って痙攣したかと思うと、感覚が覚束なくなった。つう、となにかが滴り落ちる。  うっそだろ……  おれは呆然と唇を震わせた。何度か発情する度、突っ込まれたくてしかたないと思っていたあの場所が、勝手に潤んで、どろっとしたものを溢れさせている。 「いやだ……、んっ」  思わず声にした声を奪うように、スルタンの唇がおれの唇を塞いだ。 「ん……っ、んっ、ん……」  逃げる暇もなく、火がついたみたいに熱い舌が入り込んでくる。舌を搦め捕られる。自然とおれの舌からも唾液があふれ出て、ぬるぬるした二匹の生き物みたいに絡み合う。  息ができなくて苦しい。苦しいのに。    き、気持ちいい……    おれはいつの間にかされるがままに任せて、スルタンの舌を追いかけていた。口の端から、飲み下し切れない唾液があふれるのも気にならない。  首筋を伝ったそれを舐め取られると、 「あ……ッ!」  と高い声が出てしまった。 なんだこれ。   恥ずかしくてかっと顔が熱くなったけど、スルタンはそれに構う様子もなく、首筋を舐め、耳を舐め、そして甘噛みした。 「や……ッ、やだって、」  耳の中にまで舌が入り込んできたときには、本気で身をよじった。だけど、ひちゃ、ひちゃと音を立てて出し入れされるうちに、おれの体からはどんどん力が抜けていった。 「なんだよ、これぇ……」  耳の穴の中なんかが性感帯だなんて、聞いてねえよ、このやろう。  相手が誰かもわからず――たぶん、人間の体を作った神様みたいなもの?――罵っている間にも、スルタンの吐息は獣みたいに荒々しくなっていく。  ぐっと抱き寄せられると、お互いの腰がぶつかった。腰の後ろから頭のてっぺんまでを駆け上がる痺れ。それでおれは、自分のものもスルタンのものも、完全にいきり立っていたのを知った。 「まだ、触ってもないのに、なんで、こんな――、うわっ」  戸惑いを口にし終わらないうちに、体が宙に浮いた。スルタンがおれを軽々と抱き上げたのだ。そのまま、部屋の隅にある寝椅子に運ぶ。   花みたいな形をした窓から、月明かりが差し込んでいた。 ス ルタンは、そこにおれを下ろし、ズボンを剥ぎ取った。それから膝の裏に手を入れて、ぐっと両足を押し広げる。 「…………!」  恥ずかしさで、言葉が出ない。    だって、こんな目に遭ってるのに、おれのそこからはとろとろと蜜みたいなものがあふれ出てるのがわかってしまうのだ。わかってしまうくらい、濡れているのだ。  このとき、花みたいな形の窓から差し込む月明かりで、初めてスルタンの顔を見た。    汗ばんだ頬に貼り付く長い髪。切れ長の瞳は、長いまつげに縁取られている。一番星が昇る頃の空みたいな、濃くて、でも澄んだ青色の瞳。それでいて女っぽくはないのは、頬骨がしっかりして、鼻筋が通っているからなんだろうか。綺麗と強い、その両方みたいな顔、と蕩けた頭で考える。  スルタンもこちらを見上げている。  刹那、おれたちは見つめ合った。  ――それから、スルタンの頭が視界から消えたと思うと、信じられないことが起きた。 「あ……!?」  スルタンの舌が、さっきからだらしなく濡れっぱなしのおれのそこに、差し入れられたのだ。 「ひ……!」  ぐにぐにと、潜り込むように動かされて、衝撃が頭のてっぺんまで駆け上がった。 「あ、やだ、やめろよお……」  大きく股を開かされて、そんなところを、舌なんかで犯されている。  わけがわからなさ過ぎて、じわっと涙がにじんで来る。  なのに、気持ちがいい。  どうしちゃったんだよ、おれ…… 「あっ、あっ、あっ」  スルタンが舌を動かす度声が出てしまって、おれは自分の口を手の甲で塞いだ。その間も、くちゃ、くちゃ、とやらしい音が響き続けて、耳からも犯されている気分になる。  部屋でひとり発情してたとき、自分が突っ込まれたいと思っていることが情けなくて泣いた。  でも、こうして本当にそこをいじられると……  スルタンが、すっかり蕩けたおれのそこを、さらにぐっと広げる。限界まで深く入り込んだ舌を激しく動かされる。 「あ、あ、あ、ああああああ……!」  強すぎる快感で、理性は吹っ飛んだ。悲鳴みたいな声を上げて、おれは達してしまった。でも、射精はしていない。空イキ、というやつだ。 「あ、あ、……」  射精したわけでもないのに、快感の余波がまだ体から消えない。  空イキなんて、都市伝説だと思ってた。  壁に背中をぐったりあずけたまま放心することしかできないおれの腕を、スルタンが掴む。寝椅子の座面に胸をつけ、腰を高く上げさせられる。  凄い格好をさせられてるとはわかっているのに、体がいうことをきかない。 それでいて、さっき中でイかされたばかりのそこが、ぱくぱく生き物みたいに口を開けているのはわかった。  ――誘っているのが。  ぱくぱく、ひくひく、痙攣する度、まだまだ蜜があふれて尻を伝う。  そしてついにそこに、おれの望んでいた物が押し当てられた。 「……!」   ぐっと胸が詰まる圧迫感があったのは一瞬。  あとは、とろとろあふれる蜜で誘い込まれるように、奥までひと息に貫かれた。 「あ……!」  ずん、と大きくて熱い塊が奥まで達して、体が悦んでるのがわかる。肉がかってに、スルタンに絡みついていく。 「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、やっ、やだ、い、いい、もっと……!」  注挿に合せて、理性がぶっ壊れていくのを感じた。
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