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珍しく険しい顔で、雷斗を瞶めた晴幸が、震える手で原稿用紙を机の上へそっと置き、
「これは──晴幸には、とても馴染めるものではありません」
小さな声音で、動作と違わず震える調子に、臆々と訴えた。
「何が馴染めないと言うのだ?」
何処か拗ねたように、口唇を尖らせて見せた雷斗は、晴幸が置いた原稿用紙を、まるで引っ手繰るように自分へ引き寄せると、眉間を歪めて、顔の前に翳した。
「それは……先生の──四万城 雷斗の作品に、相応しい流れとは到底思えません」
始め弱々しく有った口調は、感情を孕んだか声高に尾を曳き、食後の御茶を運んで来た、女中の美代をギョッ──とさせてしまった。驚きに口を挟もうと、一音漏らした美代だが、何時もらしからぬ晴幸の険しい顔と、言葉を受けた雷斗が、晴幸へ向けた視線の鋭さに、口唇を噛んでそれを堪えた。
「相応しいもなにも……それは、私が決めることだッ」
苛立ち顕わに、原稿用紙を机に叩き付けた雷斗は、口を開こうとした晴幸を制すと、
「もう良い──凡庸なお前に聞いた私が馬鹿だった」
くるりと椅子を回転し、晴幸に背中を向けてしまった。
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