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「彼女の元へ行って傍で見守りなさい。下級悪魔くらいならあなたがいれば大丈夫でしょう」
「はい!」
元気よく返事をするコレットに少しだけ不安を覚えながらも、ミカエルはやるべきことのためその場を離れることにした。
ヒト型になっているとはいえ、コレットは天界のうさぎ――天使同様、一般人に姿を捉えられることはない。
もし見えるとしたら、それは悪魔や天使と関わりのある人間だ。
コレットと別れ、ミカエルは教会へ向かう。
町で一番大きな教会には人の気配がなく、静寂が支配している。
ドアをすり抜け、礼拝堂にたどり着くとそこにはミカエルの見知った顔があった。
「ラフィー」
ライムブロンドの髪は腰まで届き、同じ色の睫毛に彩られたエメラルドグリーンの瞳がミカエルを捉える。
大天使のひとり、ラファエルだった。
彼女は自分の名を冠するシャーロットカップのピンクのバラの花束を抱いて、ミカエルに近づいてくる。
「メフィストフェレスの力が増したわ。何があったの?」
「契約者の呪いを飲み込んで、対価として契約者とその恋人――二人のお互いに関する記憶を奪ったらしいわ」
ミカエルの言葉を聞いて、ラファエルが首を傾げた。
「互いの記憶を奪うって……それ、意味あるの?」
「完全に忘れてしまったとき、二人の魂を喰らうつもりなんでしょう。お互いの記憶がなくなっても『大切だった』という思いは消えないけれど、その思いすら忘れてしまったら?」
「ああ――悪魔が好きそうな展開ね」
ラファエルの腕の中で、バラの花束が揺れる。
彼女は静かに怒りを堪えていた。
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