ファウスト

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 メフィストフェレスは、何も答えない深幸を見て笑ったまま口を開く。 「待ちましょう。深幸様、あなたが望みを口にしてくれるまで」  裂けた唇から赤い舌がちらりと覗いた。 「もうすでに長い時を待ちました。あなたが答えてくれるまで待つくらい、どうってことないですから」  そう告げたメフィストフェレスの体は、闇に溶けるように消えていく。 「ああ、最後に一つだけ。天使のような存在こそ、信用してはいけませんよ。奴らは我々悪魔よりよほど卑劣だ」  胸をざわつかせるような言葉を残し、メフィストフェレスの気配は完全に消えた。  残されたのは静寂と、闇と、目覚めない彼女だけ。 ▽▲▽  メフィストフェレスに対する答えが出ないまま、気付けば一週間が過ぎていた。  美幸は変わらず死んだように眠り続けている。  彼女を見舞うため、病院に向かっていた深幸は公園の前で一人の少女に出会った。  陶器のような肌。金色の髪に紫水晶の瞳。人形のようなその少女は、白いうさぎを抱いている。 「あなた、ひどい匂いがする」  少女は眉間にしわを寄せ、深幸を見ていた。 「上級悪魔のにおいね。覚えがある」  紫水晶の瞳の中で炎が揺れる。 「悪魔――」 「そう、悪魔。私達天使の敵」 「天使?」  呟くように言った深幸の言葉に答えるように、少女――ミカエルの背に翼が現れた。
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