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呪詛となった言霊が、鎖となって深幸と美幸を捉えているようだ。
「悪魔から呪いを解くとでも提案があったのかしら。残念だけど、これはそう簡単に解けないわ」
ミカエルは鎖を指先でなぞりながら言った。
呪いとなった元凶を見定めているような仕草にも見える。
「美幸の眠りが呪いなら、どうやったら解ける? 簡単じゃないと言うけれど、方法があるんだろう?」
僅かな希望が見えた深幸は、ミカエルに問いかけた。
「彼女に恋慕した男が断られた腹いせに呪詛の言葉を残し、あなたに恋慕した女が彼女の存在を妬み呪った。あなた達を取り巻いた2つの呪いが、彼女へ行ってしまったのね」
鎖に触れて、その呪いを読み取りながらミカエルが答える。
彼女に抱かれたうさぎのコレットは、くんくんと鎖の臭いを嗅いで鼻をひくつかせていた。
「人間の憎愛は醜いわ。女の嫉妬は相手の女へ、男の嫉妬は相手へ向かうことが多いんだけど」
美幸との結婚が決まる少し前、深幸は同僚の女性から告白されたのを思い出す。
婚約者がいることを伝えると、彼女は泣きそうな笑顔で祝福してくれた。
その笑顔の裏に憎しみが隠れていたのか、今となってはもうわからない。
「呪詛は簡単には解けないわ。呪いをかけた相手が呪っているという事実に気付かず、日常を過ごしていたりもするから。そうなると、かけた本人にさえ呪いを解くことはできない」
紫水晶の瞳に影が差す。
美しい天使は、深幸に『美幸を目覚めさせる手段はないに等しい』という絶望を告げたのだ。
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