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青ざめる深幸にミカエルは冷たい視線を向けていた。
「まあ、手段が皆無というわけではないけれど、あまり現実的ではないわ。人間の悪い性よね。他人の痛みには鈍感で、自分の不幸を許せないのは」
一拍置き、ミカエルが再度口を開く。
「呪いを解くには因果を遡らなくてはならないでしょうね。既に起こってしまったことをなかったことにするには、途方もない労力がいるわ。人間の力だけではまず無理ね」
そもそも、呪い自体、人智を超えた現象なのだ。
「もう一つの方法は、呪いの対象を移してしまうこと。基本的に、呪いをかけてきた相手にはね返すことになるわ」
しかし、呪いを返すにはあまりに遅い。
実質、美幸にかけられた呪いを解く手段はないに等しかった。
「私が言えるのはここまで。基本的に天使は人間に干渉できないの。我らが神が望めば別だけど……」
喋りすぎたと思ったのか、ミカエルはそこまで言って口を噤んだ。
深幸は唇を噛み、何かを考えている。
「祝福はできないけれど、あなたの進む道程に光がさすことを願っているわ」
ミカエルの言葉の後、強い風が吹き深幸は目を閉じる。
目を開けると、既に彼女の姿はなかった。
「神は美幸を救ってはくれない」
救いがあるなら、一年も美幸を目覚めないままにしておくわけがないと深幸は考えてしまう。
「深幸様」
不意に声をかけられた。
深幸の影から黒い獣が現れる。メフィストフェレスだった。
「お気持ちは決まりましたか?」
獣の姿のまま、メフィストフェレスは問い掛ける。
その声は酷く楽しそうだった。
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