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ニヤニヤと嗤うように、口元を歪めるメフィストフェレス。
そんな彼女に望みを伝えるため深幸が口を開く。
「美幸を、助けてほしい」
望んでいた答えを聞けたメフィストフェレスは、獣の姿からヒト型に姿を変え、浮かべていた笑みを深くした。
裂けた唇がいびつに歪み、『あはは』と張り付くような笑い声を上げる。
「ははっ、深幸様、あなたの願い、私が叶えましょう」
言いながら、メフィストフェレスは両の手のひらで深幸の頬を包む。
そっと額に口付けると、深幸の姿が消えてしまった。
「あは、あはは。深幸様、あなたの願い通り、彼女は助けてあげます。その対価は、あなた方の記憶」
絶え間なく漏れる笑い声。
恍惚とした笑みを浮かべ、メフィストフェレスは空間を跨ぐ。
美幸の病室に移動すると、彼女の魂を蝕んでいた呪いを体から引き剥がした。
「目覚めた彼女はあなたを覚えていない。あなたのことだけが思い出せない。そして、あなたも彼女のことを思い出すことなく、永遠に私に囚われるのです!」
呪いを飲み込み、メフィストフェレスはなおも楽しそうに嗤う。
愛し合う者たちの記憶を奪い引き裂くのは、なんて甘美なのだろう――そう考えながら病室から出ていく。
「う、ん……」
誰もいなくなった病室で、美幸は静かに目を覚ました。
「ここは、どこ。私は一体……」
体を起こそうとしても思うように動かない。
ゆっくりと頭を起こした美幸だが、重力に負けすぐに枕に沈む。
そんな彼女の姿を窓の外から見ていたのはミカエルだった。
彼女の腕の中でうさぎのコレットが『きゅう』と鳴く。
まるで何かを言いたそうな、切ない鳴き声だ。
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